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初めてのキス(1)
ルーの部屋は片付いていて、使い込まれた机の上には数冊の本と羽ペン、それから小さなインク壺が置いてあった。
あとは部屋のほぼ全ての面積をベッドが埋めていたから、僕たちは自然にベッドへと腰掛けた。
ルーがおもむろにチョコレートを割って、一枚のうち半分も僕にくれて。
「ほ、本当にいいの?」
「もちろん」
思わず唾を飲み込む。
チョコレートなんて、今どき軍部がみんな持っていってしまう。ルーは一体どこで手に入れたんだろう。ほとんど違法じゃないの?
ドキドキとチョコレートを抱えこみ、パキリとかじりつく。
「…………っ!」
ああ、舌がとろけるって、こういうこと――。
忘れていた甘美な味が舌に染み込んでいく。
豊潤なカカオの香りが鼻に抜けてたまらない。
「美味しい?」
「……おいひぃ……」
ちょっと目尻がウルっとなってくる。今一瞬、ラウラのこととか完全に忘れていた。
「ルー……」
「なに?」
「ありがと……」
「……っ、てんし……っ!」
ルーは急に眩しそうに目を覆うと、十字を切って手を組んだ。肩がぷるぷると震えている。
よくわからない。わかるのは、口の中がパラダイスってことだけ。
「ルー、ぼく、しんでもいい」
「ちょっと黙っててくれる……?」
ルーがつらそうに身悶えている。
なるほど、わかったぞ?
きっとルーも久しぶりにチョコレートを食べたんだ。それなら納得。
「うん、だまる!」
「だから黙ってて……しぬ」
わかる、わかるよその気持ち。戯れ事はやめてチョコレートに集中だ。
イェスチョコレート、ゴーゴーパラダイス!!
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