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初めてのキス(2)
それから僕らは、チョコレートを楽しみながらいろいろな話をした。
お隣さんの猫が二匹の仔猫を産んだことや、
互いの友達だったシュテルンが、17になったら志願兵になるつもりだと言っていたことや――
近頃、クライノート・フォン・なんとかって貴族が、急死した伯爵の落とし胤を血眼になって探していること――なんかを。
「貴族サマの血かぁ。どんな顔してるんだろうね、その落とし胤の子って。こう、いかつーい感じの、いかにも貴族って顔かな?」
言いながら僕は指で吊り目を作った。
「案外、友達の誰かだったりしてね」
「それなら、ベアテルとか?」
ガリ勉で無口で、嫌味な旧友。そのしかめっつらを思い出しながら言った。
「ベアテルか。確かに威厳はある。けど気品が足りないな。あいつ、コルネリウス先生が大事に育てた薔薇を折って踏み潰してたし」
「え、あれベアテルだったの!? 酷い!」
潔癖な女教師のコルネリウス先生が、いつだったか泣いたような目をして、僕らに薔薇のことを問いかけたことがあった。
いつもの凛と張った声じゃない、弱々しくて、悲しい声で。
「だろう? 先生は厳しかったけど、理不尽な人じゃなかった。それをあいつ、不当に成績を下げられたと吹聴して根に持って」
「ないない!ベアテルは失格――!」
腕で大きなバツを作って見せると、ルーが笑った。
そんななんでもない話をひとしきりした後に、ふいの沈黙が流れた。
――言うべきことを、今ならちゃんと言えるかもしれない。そう思った僕は――
「ルー、その、今日のことなんだけど――」
「うん?」
「いろいろ、君にだ、抱きついて泣いたりなんだり、気持ち悪かったよね、ごめん! 家でご馳走にまでなって、ほんとになんか、ほんと、ごめん」
「そんなこと」
「ほんと情けなくて消えたい……。ラウラのことは、仕方ないと思ってる。――父さんが戦地に行く時にさ、僕に言ったんだ。母さんとマリーを頼むって。なのに」
「ノア」
「守れなかったんだ。マリーも、母さんだって……」
マリーが天に召されてから、母さんはめっきり身体を弱くした。
「僕だって、僕のことが嫌いなんだ。ラウラに好かれなくたって当然だよ」
「ノア」
突然がしりと両肩を掴まれ、驚きて、ルーとまともに目が合った。
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