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初めてのキス(3)
「まず僕が君に一番言っておきたいのは、君が僕に抱きついたとき僕はひとつも気持ち悪いとは思わなかったし、むしろ――」
「むしろ?」
「いや……」
ルーはひとつ咳払いすると、
「その、さっきも言ったけど、僕は誰かと一緒に食事をできて嬉しかったし――マリーのことは、とても気の毒だったけれど――悪いのは君じゃない。悪いのはこの世界だ。君の父さんだって、君がこんな気持ちになっているのを喜んでなんかいないさ」
「ルー、でも」
「君の父さんはいい人だった。本当に、僕は好きだったよ。小学校の課外授業のとき、君の父さんが語ってくれた故郷の麦畑の話は素晴らしかったし、僕はその時に貰った麦の穂を、今も大事にしてる。こんな人が僕の父さんだったらなって、ひどく君を羨んだものさ」
「ルー……」
「君の父さんは、君を苦しませるためにそんな約束をしたんじゃない。僕にはわかる」
「ルー」
「君は綺麗だよ、ノア。良い両親に育てられて、だから心もこんなに綺麗で。僕とは違う……」
そう言ってルーは、少しだけ瞼を伏せた。
間近で見たルーの姿は、象牙色の肌に美しい目鼻が整い、少し長めの銀の巻き髪が瞳にかかる、まるでラファエロの絵の中の天使みたいで。
綺麗なのは君だよ、ルー。気恥ずかしくて、とても言えないけど。
「ルーだって良い人じゃない。血なんか関係ないよ、君はとても……」
するとルーは首を横に振り、
「そういうことじゃないんだ。僕はね、僕は――とても、汚い」
栗色の瞳を、つらそうにぎゅっと閉じた。
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