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初めてのキス(4)※

「ルー?……」 いつのまにかルーの手は僕の肩から離れ、長い五指が白いシーツに渦を描いていた。 「僕はノアには、秘密を持ちたくないんだ。君が信用できると思う人になら、僕のことを話してしまっても構わない」 ルーは再び僕を見つめた。 「ねえ、ノア。父さんが家を出ていってからの二年間、僕がどうやってラウラを養ったと思う?」 「えっ」 唐突な質問に頭が働かない。蓄えがあったから、とか、ルーが働いて、とか浮かんだけれど、どれも正しくて、正しくないような気がした。 「……どう、してたの……?」 おずおずと問い掛けると、ルーの口元がふっと緩んだ。 「ノアは、ダンショウ、って知ってる?」 「だん、しょう……?」 頭をひねってみても、近い言葉は見つからなかった。 「なんて言えばいいのかな。その、――裕福な紳士とかに、体を売って賃金を得る男のことだよ。まあ僕の場合、売るって言っても、抱く方が多いんだけど」 「……っ」 思わず息が詰まった。 「――ね。僕のこと、汚いと思っただろ?」 「……そんな、ことは――」 「いいよ。僕だってそう思うから。こんな僕じゃ、誰かを好きになる資格もない。愛することも。でも――」 ルーはまるで手に入らない宝石を見つめるような目で、僕を見つめた。心臓がどきりと高鳴った。 「ノアは大丈夫だ。僕みたいに汚れちゃいない。ノアは綺麗だよ。とても、綺麗だ――」 そう言って近づいてくるルーから、僕は逃げたいとは思わなかった。 重ねられていく唇の所作も、ごく自然に受け入れていた。 不思議に、嫌じゃなかった。 でも開いた隙間から舌が入り込んできた時は、驚いて体が震えた。 とっさに離れようとした、けれどルーが僕の頭を強く引き寄せ、手首も掴み取られて逃げることはかなわなかった。 「っ、く……っ」 互いの舌にまだ残るチョコレートの風味が、溶け合って混じり合う。 「っ、はっ……」 頭の奥がじんと痺れて、フワフワとして良い気持ちだ。 初めてのキス。 ルーなのに、――――同性なのに。 ラファエロの天使。 とんだ天使だ。

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