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僕の悪魔

淡い陽の光に誘われて、ゆるゆると目を開いた。 どうも眠ってしまっていたらしい。 体がふわふわとして、頭はいつになくスッキリしている。 悪夢も見なかった。 こんな朝はどれくらいぶりだろう。…… 「えっ、朝!?」 思わず飛び起きた、瞬間、ぶわりと羽が生えたように体が軽くなった。 今なら教会の鐘撞(かねつき)堂から飛んでいけそうなくらいに。 「ああ起きたの。おはよう」 「えっ」 ふいに生成りのバスローブ姿のルーが、マグカップに口を付けながらベッドに近づいた。 その格好は一体、とつっこむ前に、まじまじと自分を見る。 服が、ない。 「えっ、あっ、……」 それでようやく、眠りに落ちる前の出来事を思い出した。いや出来事というか、出来心というか。 「ルー! あのえっ……と、か、母さんが……」 「それは大丈夫。昨日のうちに僕が、ノアの母さんには伝えたから」 「つ、つ、伝えるって、いいいいったい何をっ!?」 「だからノアが疲れて、僕の家で寝てしまったってことをさ。なに?本当のこと話して欲しかったの?」 意地悪に笑む。 「……いえ……」 僕は両手で顔を覆った。 ルーはくすくす笑いながら部屋を出て、やがてマグカップをもう一つ持って戻ると僕に差し出した。 「あ……ありがとう……」 まともに顔を見られなくて、俯いたままマグを受け取る。ホットミルクが湯気を立てている。少し意外だった。 「……ルーのも、ミルク?」 「いや僕のはコーヒー」 「……僕もコーヒーの方が、」 「だめ、眠れなくなるから。不眠症の君にコーヒーは禁止」 めっ、とたしなめるように指を差す。 僕はおとなしくミルクを飲み込んだ。 はちみつが入っているのか、それはとろりと甘かった。 お腹もほんわりと温まっていく。 落ち着いてくると、窓から見える太陽の位置がまだそんなに高くないことが分かった。 どうやら、仕事には間に合いそうだ。良かった――。 それにしても本当に体が軽い。鉛みたいにしんどかった昨日までが嘘のように。 ルーはいったいどんな魔法を使ったのだろう? やっぱり、ルーは天使で……いや天使の所業にしては、いやらしすぎる。とすると……、 「ルーは、悪魔なの?」 「はぁ?」 怪訝そうに片眉を上げた。 「だって一晩で、体のつらいのが全部飛んでったから」 言いながら僕がマグに顔を埋めると、ルーは眉を緩めて薄く笑んだ。 「へえ、そう。そりゃ良かった」 ギシリ、と音を立ててベッドサイドに腰掛ける。 「だから悪魔か。そうだな。ノアが望むなら、僕は何度でも悪魔になる」 人差し指で僕の頬をなぞり、 「苦しくなったらいつでもおいで」 話し終わりに、軽いキスをくれた。

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