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治療と悪夢
"僕とのことは、あくまで治療だ。難しく考えないで――。"
見送りのときルーに言われた言葉が胸に残った。
治療……だったのかな、ほんとうに?
でも実際とても体は快適で、この日僕はふだん気になっていても手を出す余裕のなかったお屋敷の花壇を直したり、シャツに上手に炭火アイロンを当てて、母さんに褒められたりした。
もちろん、夜もぐっすりと眠れた。
二日目、三日目も調子が良くて、僕はもうすっかり病が癒えたのだと喜んだ。
でも――四日目を過ぎると、徐々に寝付きが悪くなって。
七日を過ぎた頃には、夢で恐ろしい化け物に追われて、全身びっしょりと汗をかいて目覚める、最悪な朝が戻ってきた。
重い体を引きずって、それでも仕事はテキパキしないと手を打たれる。
家のことだって、やらなきゃ母さんの負担が増える。それは嫌だ。母さんには少しでも休んで、早く良くなって欲しい。
父さんとの約束を、せめてひとつでも守りたい……。
――あの日から数えて二週間目の安息日。
僕は迷っていた。
つまり、ルーの治療をまた受けるかどうかを。
でも――ルーはああいってくれたけど、まさか本当に行くわけにはいかない。
いくら治療だといわれても、あれは神に背く行為で――第一ルーは、『これから僕のすることに特別な意味はない』と言っていた。
ルーは僕のことなんて、なんとも思っちゃいない。
旧友が落ち込んでいたから、きまぐれに手を差し伸べてくれただけ。
それなのに本気で頼ろうだなんて、図々し過ぎる。
僕はあの日、人生で初めてふられて、初めてのキスをして、それからーー、……
僕はあの日から、ルーのことばかりを考えてしまう。
昔の面影はあるけれど、ずっと大人びていた綺麗な顔立ち。
少し大胆にスープをすくう所作、落ち着いた声のトーン。
ちょっと意地悪く微笑する口元と、それから――、
思い出すだけでぞくりとする、あの行為。
「……っ!」
僕の体を気遣うようで、かなり強引だったような気もする。そうわりと、無遠慮に――、なのに思い出すだけで、身体の芯が熱くなる。
さすがは、悪魔だ。
「ふっ、くっ……」
ベッドの背にもたれ、自分を慰める。
でも何度そうしてみても、あの飲み込まれていく心地よさには到底かなわない。
それでも僕は、夜ごと欲を吐き出してはごく浅い眠りを得――夢の中で化け物に追われ、真っ暗闇を走り続けた。毎夜、毎晩、気が狂いそうになるほどに――。
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