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眠れない僕と、悪魔の君と(1)
ルーに会いたい。
皮肉ったような笑顔で、意地の悪いことを囁かれたい。
そして、眠りたい――。
ルーと離れてから、三週間が経っていた。
朝を迎えるごとに増してくる頭痛。
不調に耐えながら一日をこなして帰る。
家の仕事、母さんの看病、それから、それから……。
その時、ふっと目の前が昏くなり、
「ノア!」
母さんの金切り声がなかったら、きっと派手に転倒していた。
「ノア、ここはいいからお前はもうお休み! ああかわいそうな私のノア……」
母さんは十字を切ると手を組んだ。
僕は居たたまれなくなって、部屋へ戻ってベッドに倒れ込んだ。
頭が重い……鉛がつまっているように。
前はここまで酷くはなかったのに、なぜだろう。
あの悪魔的な解放感を、知ってしまったから?
助けて、だれか、
「ルー……」
知らぬ間に涙が溢れてくる。
睡眠薬、というものがあるらしいと聞いた。
でも薬は高価で、買う余裕なんてない。
ルーはあの行為で賃金を得ていると言っていた。
本来ならば僕だって、治療代――を支払うべきだった。
それもできないのに、二度ものこのこと顔を出せるわけがない。
そんな恥知らずな真似は――
ああ、また目の前が昏くなっていく。
いっそこのまま眠りたい。
でも落ちた夢の先にはあいつらがいて、いつも僕を食べようと爪を研いでいるんだ。
怖い……。
ついに四週目を迎えた。
まっすぐ歩いているはずなのに、振り返ると、通ってきたぬかるみにはでたらめな足跡が続いていた。
お屋敷の厳しいひとたちも、僕に気の毒そうな顔を負けるだけで叱責してもこない。
生きているのか、死んでいるのかもわからない。
ぼくは、――もう、ぼくは、
このつらさから逃れるには、あとは死ぬしか――、
でも自殺は、神に背く最大の禁忌だ。
禁忌――、同じ禁忌なら、ルーとの行為と自殺とは、どちらが重い罪なのだろうか。……
明日はまた安息日。
だけど夜明けは遠過ぎて、僕はルーのもとに行くべきか否か、逡巡したままルーの家の前まで辿り着いた。
けれどノックもできず、声を掛ける勇気もなく――ずるりと倒れ込み。
わけのわからない涙がどっと溢れた。
悲しくもないのに止まらない。
指先も足も震えて、言うことをきかない。
視界がまばらになっていく。
僕はどうかしてしまったんだろうか。
……死ぬのだろうか。
「おい、ノア!」
「……」
狭まっていく視界の中に、光が見えた。
なんてきれいな栗色の瞳。
かみさまみたいな。……
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