15 / 20

眠れない僕と、悪魔の君と(1)

ルーに会いたい。 皮肉ったような笑顔で、意地の悪いことを囁かれたい。 そして、眠りたい――。 ルーと離れてから、三週間が経っていた。 朝を迎えるごとに増してくる頭痛。 不調に耐えながら一日をこなして帰る。 家の仕事、母さんの看病、それから、それから……。 その時、ふっと目の前が昏くなり、 「ノア!」 母さんの金切り声がなかったら、きっと派手に転倒していた。 「ノア、ここはいいからお前はもうお休み! ああかわいそうな私のノア……」 母さんは十字を切ると手を組んだ。 僕は居たたまれなくなって、部屋へ戻ってベッドに倒れ込んだ。 頭が重い……鉛がつまっているように。 前はここまで酷くはなかったのに、なぜだろう。 あの悪魔的な解放感を、知ってしまったから? 助けて、だれか、 「ルー……」 知らぬ間に涙が溢れてくる。 睡眠薬、というものがあるらしいと聞いた。 でも薬は高価で、買う余裕なんてない。 ルーはあの行為で賃金を得ていると言っていた。 本来ならば僕だって、治療代――を支払うべきだった。 それもできないのに、二度ものこのこと顔を出せるわけがない。 そんな恥知らずな真似は―― ああ、また目の前が昏くなっていく。 いっそこのまま眠りたい。 でも落ちた夢の先にはあいつらがいて、いつも僕を食べようと爪を研いでいるんだ。 怖い……。 ついに四週目を迎えた。 まっすぐ歩いているはずなのに、振り返ると、通ってきたぬかるみにはでたらめな足跡が続いていた。 お屋敷の厳しいひとたちも、僕に気の毒そうな顔を負けるだけで叱責してもこない。 生きているのか、死んでいるのかもわからない。 ぼくは、――もう、ぼくは、 このつらさから逃れるには、あとは死ぬしか――、 でも自殺は、神に背く最大の禁忌だ。 禁忌――、同じ禁忌なら、ルーとの行為と自殺とは、どちらが重い罪なのだろうか。…… 明日はまた安息日。 だけど夜明けは遠過ぎて、僕はルーのもとに行くべきか否か、逡巡したままルーの家の前まで辿り着いた。 けれどノックもできず、声を掛ける勇気もなく――ずるりと倒れ込み。 わけのわからない涙がどっと溢れた。 悲しくもないのに止まらない。 指先も足も震えて、言うことをきかない。 視界がまばらになっていく。   僕はどうかしてしまったんだろうか。 ……死ぬのだろうか。 「おい、ノア!」 「……」 狭まっていく視界の中に、光が見えた。 なんてきれいな栗色の瞳。 かみさまみたいな。……

ともだちにシェアしよう!