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眠れない僕と、悪魔の君と(2)緊縛
「こんなとこで何やってるんだっ!」
ルーは僕を抱き上げると、ドアを蹴破るようにして中に入った。
床の上をツカツカと歩く音、そしてドサリとベッドに寝かされた。
のしかかったルーが上から僕を見下ろしてくる。
「だからあれほど言ったのに、なんで一ヶ月も来なかったんだ? こんなに衰弱して、バカ!」
「る、」
「たまたま玄関で物音がして気づいたものの、下手したら朝まであのままだったかもしれないんだぞ!?」
……凄く怒っている。
「ごめ、……だって、……」
「なんだよ?いい訳があるなら言ってみろよ」
「……その、だって……おかねとか、ないし……」
「はあ?」
ルーは少し考える素振りをしてから、何かに気が付いたようにうなだれ、右手で顔を覆った。
「ノア……君から金を取る気なんか、あるわけないだろ。僕はそんなにあこぎに見えるか?」
「ちが、……でも……」
「あー、そうだな。君ってやつは、昔からそうだった。自分がつらい時でも、いつもいつも誰かのことばかり気遣って、君のそういうところが――」
「ルー、」
「尊敬もしたけれど、歯痒くもあった。もっと自分を大事にすれば良いのにって」
「ルー、ぼくは」
「決めた。毎週末、安息日の前の晩には僕が君を迎えに行く。そうしてここで治療を受けさせる」
「でも」
「でもじゃない。いいか、これは僕のただのお節介だ。君の意志じゃないし、いわば僕の趣味。君は何も考えなくていいし、まして金のことなんて論外だ。約束とかじゃない、これは命令だ」
言いながらショールを引き裂くと、僕の両の手首をベッドの左右の柵に縛りつけた。
――そんなことしなくたって、僕には反論する気力も、逃げ出す力だって、ひとつも残ってはいないのに。
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