17 / 20

眠れない僕と、悪魔の君と(3)緊縛※

ルーは昔から、ハッキリと物を言う生徒だった気がする。 正義感が強くて、嫌なことは嫌と言える。 僕はそう、ずっと憧れていたんだ。 なぜ忘れてしまっていたんだろう。 でもルーは、感情に任せて誰かを支配するタイプじゃなかった。 こんなふうに荒々しく怒ることもなかった。 どうして? なんで僕なんかのために、こんなに必死な顔をするの。 知りたいけれど、聞いたらもっと怒られそうで。 「だけど、そうだな――」 さら、と僕の前髪をかき分けながら、ルーは少しだけ目元を優しくした。 「かなりギリギリだけど、うちの玄関に倒れたのは良い判断だった。最後に僕を頼ろうとした、そのことだけは褒めてやる」 はぁ……。長いため息を吐き出すと、ルーは僕の額に口づけた。 「今日はノアの方から来てくれたから、僕のとっておきをあげようか」 やや上体を起こすと、ルーは窓辺に飾られていた小箱を開けた。 中にはキャンディーのような赤い包み紙が入っていた。 その小さな包み紙から出てきたのは、丸いチョコレートだ。 ルーはそれを、僕の口にカラリ、と入れた。 自分が空腹なのかも、もう随分前からわからなくなっていた僕は、曖昧にそれを噛み締めた。 「っ……!」 ぷち、と奥歯がその中心を噛み潰したとき、口の中に濃厚な刺激物が飛び散って喉を刺した。 アルコール、洋酒入りのチョコレートだった。 「ぅ、……んっ、」 喉を焼き付けながら流れ込んだ液体はごく微量だった、でも、ほとんど空っぽの僕の胃袋には刺激が強すぎた。 腹の中が熱を帯びて、それが麻薬のように広がっていく。 「美味しいだろう? これは本当に稀少な物なんだ。僕もひとくち、味わわせてもらうよ」 ふっと目の前に影が差し込み、形の良い唇が嗤いながら僕の唇を塞いだ。 ――ピリピリする。 甘いのに、ほろ苦い。 痺れた舌をルーの舌が絡め取る。 あの時よりも強烈な陶酔感が、ねじ伏せるように全身を襲った。

ともだちにシェアしよう!