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眠れない僕と、悪魔の君と(3)緊縛※
ルーは昔から、ハッキリと物を言う生徒だった気がする。
正義感が強くて、嫌なことは嫌と言える。
僕はそう、ずっと憧れていたんだ。
なぜ忘れてしまっていたんだろう。
でもルーは、感情に任せて誰かを支配するタイプじゃなかった。
こんなふうに荒々しく怒ることもなかった。
どうして?
なんで僕なんかのために、こんなに必死な顔をするの。
知りたいけれど、聞いたらもっと怒られそうで。
「だけど、そうだな――」
さら、と僕の前髪をかき分けながら、ルーは少しだけ目元を優しくした。
「かなりギリギリだけど、うちの玄関に倒れたのは良い判断だった。最後に僕を頼ろうとした、そのことだけは褒めてやる」
はぁ……。長いため息を吐き出すと、ルーは僕の額に口づけた。
「今日はノアの方から来てくれたから、僕のとっておきをあげようか」
やや上体を起こすと、ルーは窓辺に飾られていた小箱を開けた。
中にはキャンディーのような赤い包み紙が入っていた。
その小さな包み紙から出てきたのは、丸いチョコレートだ。
ルーはそれを、僕の口にカラリ、と入れた。
自分が空腹なのかも、もう随分前からわからなくなっていた僕は、曖昧にそれを噛み締めた。
「っ……!」
ぷち、と奥歯がその中心を噛み潰したとき、口の中に濃厚な刺激物が飛び散って喉を刺した。
アルコール、洋酒入りのチョコレートだった。
「ぅ、……んっ、」
喉を焼き付けながら流れ込んだ液体はごく微量だった、でも、ほとんど空っぽの僕の胃袋には刺激が強すぎた。
腹の中が熱を帯びて、それが麻薬のように広がっていく。
「美味しいだろう? これは本当に稀少な物なんだ。僕もひとくち、味わわせてもらうよ」
ふっと目の前に影が差し込み、形の良い唇が嗤いながら僕の唇を塞いだ。
――ピリピリする。
甘いのに、ほろ苦い。
痺れた舌をルーの舌が絡め取る。
あの時よりも強烈な陶酔感が、ねじ伏せるように全身を襲った。
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