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ノアの秘密と猫の鈴 (1)

** クリスマスが間近に迫った安息日の前夜。 事を終えた後でルーは、大きな鏡台を部屋に持ち込んだ。 ルーの手がワインレッドのカバーをばさりと外す。あられもない僕自信の姿が鏡に映し出された。 「……肌の色が良くなってきてる。そら、自分でも見てみろ」 僕を羽交い締めにしたルーの右手が、顔をそむけた僕の顎を無理やりに引いた。 恥ずかしい……。 「お前の肌、最初は土気色だったのに、今はこんなに白い」 長い指が僕の胸から鳩尾(みぞおち)までをつうう、となぞっていく。 ルーの僕への呼び方は、いつの間にか『君』より『お前』の方が多くなっていた。 「……伸びたな」 僕の額の真ん中で分かれた前髪を撫でると、毛先にキスを落とす。 ほとんどストレートの黒髪は、ろくに手入れもせずに放っておくうち、ルーと同じくらいの長さに育っていた。 「切った方が、いい、かな……?」 「いらない。このほうが似合う」 「そ、……そう……」 近ごろ、ルーの距離感が前にも増して恋人のように感じるのは、僕の願望のせいだろうか。 こんな風に僕の心をたやすく弄ぶことのできるルーなのだから、彼自身が望みさえすれば、きっと、 「モテるんだろうな……」 「なに?」 「いや、ルーはモテるんだろうな、って」 「別に。そんなことはない」 嘘だ、モテないわけがない。でもそんな風に言ってしまったら、きっと不快にさせるから。 「本当に?――でも、ルーが気づいていないだけかもしれないよ。気になる人とか、いないの……?」 本音の代わりにそんなことを聞いてしまって後悔した。でも、知りたかった。 「それは、……」 ルーは別のどこかを見るように視線を外した。心臓の屋外ちくりと痛む。答えを待つ数秒間が、とてつもなく永く感じた。 「――ノアはどうなんだ。言い寄られたこととかないのか?」 「えっ……と、それは」 言い寄られた、と言っていいものかわからない程度のものなら、ある。 ほんとにいうべきほどの事じゃないけれど、それでもしルーが、妬いてくれるというのなら……。

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