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安心と恐怖

琳皐(りつき)がどこか行ったかと思ったら、兄貴が俺を仰向けにしてベッドに寝かせた。 兄貴から急に離されて何されるのか分かんなくて、怖くてたまらなかった。 どうして、どうして、置くの、?! なんで、兄貴も、おれが、きらいなの、? そう思うと、呼吸が苦しくなって、涙が出てきた。 「は、はッ、や、だッ」 「菖綺(あやき)!?」 「あやくん!」 「はッ、は、は、おいて、かないでッ、!」 自分ではどうもできなくて、必死に手を伸ばした。 兄貴が抱きしめてくれた。 「大丈夫大丈夫。ゆっくり息を吐いて」 兄貴の指示に従ってたら、落ち着いてきた。 過呼吸になって、すごいつかれた。 いつの間にか琳皐も戻ってきてたみたい。 気づかなかった。 「菖綺は大丈夫か?」 「うん。落ち着いたみたい。」 「そうか、なんで過呼吸に?」 「しずが菖綺に何も言わずにベッドに寝かせたから驚いたんじゃないか?」 「あ、多分そう。」 「何も言わずに寝かせるなんて珍しいな」 「いや、正確には声をかけてたが今聞こえずらい菖綺には多分聞こえてなかったんだと思う」 「なるほどな」 「菖綺の反応を見れば聞こえてるか聞こえてないかぐらいわかったのに、もっと確認しとけばよかった」 「シュンとしてるな」 「まぁブラコンだからな笑」 「それでできそうか?今日やりたいんだが」 「うん。菖綺には申し訳ないけど、早く治すにはするしかないし、もう少し頑張ってもらうよ」 「そうか、鬼だな」 「え、ひどくない?!俺だって頑張ってるのに!」 「しずも頑張ってるもんな笑」 「稜生(いつき)大変だな」 さっきの過呼吸で疲れてウトウトしてたけど、兄貴から声をかけられた。 「あや、ベッドに寝かせるね?」 「?ぅん」 眠たくて兄貴の言ってることが理解できなくて、ただ「うん」と言うこと以外に何も浮かばなかった。 兄貴がなんで寝かせるのか聞くのも億劫になるほど。 兄貴がなにか言ってるけど、なんかわかんない....とりあえず、眠たい.... 「あれ?菖綺寝た?」 「寝てるね、説明したけど聞いてないみたい笑」 「じゃあ、このままやるしかないか」 「あやくん寝顔可愛い♡天使だ♡」 菖綺が寝てしまったけど、寝かせたまま鼓膜切開をすることにした。 痛いだろうからすぐ起きるだろうけど。 菖綺を寝かせたまま、痛みで起きた時パニックを起こすかもしれないので零軌(しずき)は菖綺に跨り、菖綺と目を合わせられるようにして、稜生は頭を固定した。 頭だけは絶対に動かないようにした。 起きた時パニックになって、手で耳を触ろうとする可能性が高いので手は零軌が抑えた。 顕微鏡で観察した上で浸潤麻酔(麻酔液を浸したガーゼによる麻酔処置)をした。 菖綺は常にピンと糸を貼った状態、緊張状態にあり、いろいろと感じとることが出来る。 なので、寝てたとしても耳になにか入ってくれば、気づいて起きてしまう。 「んん」 「大丈夫大丈夫。あやくん、寝てていいよ」 起きてしまうが、痛みを感じる訳では無いし、起きた時目の前にいるのが零軌なので零軌に「大丈夫」と言われ、トントンされれば安心してもう一度寝てしまった。 多分稜生や琳皐だと、安心して寝れはしないだろう。 菖綺は警戒心が強く、繊細だから、もしかしたらこの世でたった1人、零軌だけに安心するのかもしれない。 零軌だけだからこそ、もし捨てられたらと恐怖心があるだろうが、まぁ見ての通り周りと本人公認(菖綺だけ気づいてない)ブラコンだから。 麻酔に5分ほどかかるので、その間に菖綺を再び寝かせた。 切開そのものは1~2分で終了するものの、状態や人によっては麻酔が効きにくく痛みを感じる場合がある。 菖綺は麻酔が効きにくい。 さっきも言ったように、ずっと緊張状態の菖綺には麻酔が効きにくくなってしまう。 麻酔が効きにくい人の主な原因は緊張状態以外にもあるが、緊張や不安が強いと、アドレナリンが分泌され、血流が変化して麻酔薬が分散し、効果が低下してしまう。 菖綺は我慢強いが、治療に関しては断固拒否するほど嫌いなのだ。 痛いことは嫌いだけど、喧嘩してたことある。 それはある意味....(その話はまた今度)

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