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精神科医
医者は全員誰だろうと痛いことをしてくるから嫌いだ。
だけど、この人は違う意味で嫌だ。
入院してから一度も会ってなかったから油断した。
今回の入院は食べてなかったのが主な原因だから、俺のところには来ないと思って、安心してたのに....。
「そんなわけないでしょ」
「!?」
「食べれないのは精神的なことあるから。菖綺 の場合、食欲不振は精神的なストレスから来てることがあるから俺も関わるに決まってるだろ」
こういうとこが嫌だ。
俺の心の中を見透かしてくる。
この人は『櫟 夢后 』、精神科医だ。
なんでもお見通しなのが嫌なんだ。
わざと心の中にドカドカと入ってくる。
一時期精神科に通ってたことがあって、主治医だった。
もう精神科には通ってないし、会わないと思ってた。
「それより菖綺、早くベッドに戻れ」
「....」
「しょうがない」
ヒョイッ!
「!?なにッ!?」
「ずっと動かないから」
軽々しく(実際軽い)持ち上げられ、簡単にベッドに戻された。
なかなかこの人には逆らえない。
何もかも見透かされてるような目で見られると、どうもダメなんだ。
口は悪いけど、こう見えて幼児から思春期までの子どもの心の健康を専門とする小児精神科医なのだ。
コンコンコン
ガラガラガラ
「失礼します。ちょっとゆう!先に行かないでって言ったよね?」
「遅い」
「先に行くからでしょ、。あ、ごめんね。久しぶり、菖綺」
「....」
「あれ?緊張してる?久しぶりだしね!それとも、ご機嫌ななめかな?笑」
この人も小児精神科医の『柊 葉妃 』。
「零軌 、遅くなってごめんね」
「全然だよ!ありがとう!」
この2人は兄貴の先輩らしい。
だけど、仲良いから敬語じゃなくてタメ口なんだって。
兄貴はさっき「櫟先生」って呼んでたけど、プライベートだと名前呼びしてる。
仕事だと、櫟先生と柊先生って呼んでる。一応先輩だし。
兄貴も看護師とか患者とかからは椛 先生と呼ばれてる。
小児精神科医だから、子供が呼びやすい呼び方で、櫟夢后だからゆめ先生と、柊葉妃だからはー先生と呼ばれているらしい。
最初はなんか恥ずかしかったから、先生としか呼んでなかったけど、先生だったら誰呼んでるか分からないし、いつしか慣れた。
兄貴が仲良くてプライベートで会う時もあるから、その時は夢后くんとはーくんって呼ぶ。
あ、稜生 が呼び捨てなのは小さい頃から兄貴が稜生って呼ぶのを聞いてたから。
兄貴は色んな呼び方で呼んでたけど。
兄貴と仲良いからもちろん(?)稜生とも仲良い。
「そういえば、体重測定と採血終わった?」
「終わってない」
「あ、そうなのね」
あ、そうだ。
体重測定と採血があるんだ....。
逃げたい....
けど医者が3人....。
兄貴1人でもなかなか難しいのに、絶対無理だろ....。
ゆめ先生いるし....。
逃げられるわけない....。
でもバレたくない。
俺がぐるぐると考えてる間に兄貴たちは着々と準備が進められていた。
「よし!菖綺、体重測定からしようか!」
「....イヤ」
「痛いことないよ?」
準備が整ったらしく、はー先生がベッドに座って下を向いてる俺と目が合うようにしゃがんで、話しかけてきた。
体重測定が痛いことじゃないってわかってるし、そういう問題じゃない。
「零軌」
「ん?」
俺とはーくんが話してる間に、兄貴はゆめ先生に呼ばれて、二人で何か話してた。
「零軌が抱っこして菖綺の体重測ろう」
「うん、いいよ」
「菖綺は体重測るの嫌いだろ。この状況もストレスだろう。昨日言わなかったんでしょ?」
「うん。言った方がよかったかな?」
「いや。言ってた方が心の準備する時間があるだろうけど、菖綺の場合は心の準備は出来ないし、考えてる時間ずっとストレスを負うと思うから、直前に言った方が考える時間が短いから、俺は間違ってないと思う」
「そっか。でもなんで俺なの?」
「俺か葉妃でもいいけど、1番安心できるのは零軌だし、それに零軌も自分が抱っこして測りたいだろ?」
「うん、それはそう!」
「じゃあなんで聞くんだよ」
「なんとなく!」
「零軌、自分の体重先に測れよ」
「うん」
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