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甘い香りは、秘密のはじまり⑤
クスクスと笑いながら僕が聞くと、彼はまた大きく瞳を見開いて。それからびっくりするくらい無邪気に笑い、僕に思いっきり抱きついた。
「まじで!? めちゃくちゃうれしい! ありがと、佐藤!」
「ちょっと、大路君!? 近い、近すぎるから!」
パーソナルスペースの感覚が、完全にバグっているとしか思えない。
地味平凡陰キャな僕には、あり得ない距離感だ。
想像以上に大喜びをされ、再び少し戸惑った。
「ごめん……。よく言われる」
あわてて僕から体を離し、しゅんとうなだれるその表情は、黄金色の髪と相まって、完全にゴールデンレトリバーにしか見えない。
そんな彼の表情もやっぱりこれまで目にしたことがなかったから、つい苦笑した。
ちょっと早まったような気がしないでもないが、これだけ期待してくれているのだ。
スイーツの魔法使い りとるの底力、とくと見せてやろうじゃないか!
これまでは手作りのお菓子なんて身内と太陽にしか食べてもらったことがなかったから、自然と気合が入ってしまったのも当然のことといえよう。
「怒ったわけじゃないよ。今度から気を付けてくれたら、それでいいから」
ホッとしたように、僕を見下ろしたまま笑う大路くん。
やっぱりこんなのは、叱られたばかりの大型犬としか思えない。
「なにか、リクエストとかある? 特になければ、お任せになるけど」
すると彼は、かつて見たことがないくらい真剣な表情で考え込んでしまった。
リクエストするスイーツに、こんなにも頭を悩ませるとか。……ちょっと、かわいいかも。
そして、数秒後。彼は満面の笑み浮かべ、答えた。
「シュークリーム! シュークリームで、お願いします!」
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