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甘い香りは、秘密のはじまり⑥
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材料調達のために立ち寄ることにした、スーパー中西。
ここは太陽の実家でもあるから、いつも贔屓にさせてもらっている。
ちょうど帰宅途中だった太陽と遭遇したから、一緒に並んで彼の自宅兼店舗へと向かった。
その際に今日彼にクッキーを手渡したあとの大路君とのやりとりを話したら、たいそう驚かれてしまった。
「まじか……。なんか、意外だな」
「うん、僕もびっくりしてる。大路君って、あんなに話しやすいやつだったんだね」
クスクスと笑って答えたら、太陽に苦笑された。
「んー……、そっちはそうでもないかも。むしろ、理人。お前のほうの話だよ」
その言葉の意味がいまいちよく分からず、思わず首を傾げた。
「人見知りのお前が、自分からそんな提案をするなんて。……天変地異の、前触れか?」
ふざけた調子でいわれ、むっとして自然と唇がとがった。
「天変地異の、前触れって……。たしかに僕は人見知りだし、地味陰キャのコミュ障だよ? だけどそれはさすがに、ちょっと失礼なんじゃない!?」
「そこまでは、言ってねぇよ! けどまぁ、ちょっと安心したかも。お前クラスに、あんま馴染めてないみたいだったからさ」
突然そんなふうに優しい言葉をかけられたものだから、途端に怒りの矛先を失ってしまった。
「まぁ、いいんじゃないか? これがきっかけで、大路と友だちになれたらいいな」
「そういうつもりじゃ、なかったんだけど。……でも、仲良くなれたらいいなぁ」
それは僕の、素直な気持ちだった。
「でもさ、理人。いくらあいつと仲良くなっても、スイーツの魔法使い りとるの試食人は、この俺だから。そこんとこ、忘れんなよ!」
本当に、欲望に忠実なやつだ。だけどそれだけ僕の作るスイーツを愛してくれているというのは、本当にありがたいし嬉しい。
「もちろんだよ! たぶん彼とこんなやりとりをするのは、今回限りのことだと思うしね」
そう。この時の僕は、本気でそう信じていたのだ。
……なのに手作りのシュークリームのせいで、うっかり彼の胃袋を掴んでしまうこととなる。
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