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甘い香りは、秘密のはじまり⑥

***  材料調達のために立ち寄ることにした、スーパー中西。  ここは太陽の実家でもあるから、いつも贔屓にさせてもらっている。  ちょうど帰宅途中だった太陽と遭遇したから、一緒に並んで彼の自宅兼店舗へと向かった。  その際に今日彼にクッキーを手渡したあとの大路君とのやりとりを話したら、たいそう驚かれてしまった。   「まじか……。なんか、意外だな」 「うん、僕もびっくりしてる。大路君って、あんなに話しやすいやつだったんだね」  クスクスと笑って答えたら、太陽に苦笑された。 「んー……、そっちはそうでもないかも。むしろ、理人。お前のほうの話だよ」  その言葉の意味がいまいちよく分からず、思わず首を傾げた。 「人見知りのお前が、自分からそんな提案をするなんて。……天変地異の、前触れか?」  ふざけた調子でいわれ、むっとして自然と唇がとがった。 「天変地異の、前触れって……。たしかに僕は人見知りだし、地味陰キャのコミュ障だよ? だけどそれはさすがに、ちょっと失礼なんじゃない!?」 「そこまでは、言ってねぇよ! けどまぁ、ちょっと安心したかも。お前クラスに、あんま馴染めてないみたいだったからさ」  突然そんなふうに優しい言葉をかけられたものだから、途端に怒りの矛先を失ってしまった。 「まぁ、いいんじゃないか? これがきっかけで、大路と友だちになれたらいいな」 「そういうつもりじゃ、なかったんだけど。……でも、仲良くなれたらいいなぁ」  それは僕の、素直な気持ちだった。 「でもさ、理人。いくらあいつと仲良くなっても、スイーツの魔法使い りとるの試食人は、この俺だから。そこんとこ、忘れんなよ!」  本当に、欲望に忠実なやつだ。だけどそれだけ僕の作るスイーツを愛してくれているというのは、本当にありがたいし嬉しい。 「もちろんだよ! たぶん彼とこんなやりとりをするのは、今回限りのことだと思うしね」  そう。この時の僕は、本気でそう信じていたのだ。  ……なのに手作りのシュークリームのせいで、うっかり彼の胃袋を掴んでしまうこととなる。

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