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甘い香りは、秘密のはじまり⑧
今度はちょっと困ったように言われたが、これはあくまでも僕の趣味の延長線みたいなものだ。
だから変に気遣われても、逆に困ってしまう。
太陽にも、特にお礼などはもらっていないし。
それに材料費だって、配信の収益から経費として落としているから、僕の懐はまったく痛んではいない。
むしろ普段は太陽と家族ぐらいしか食べてくれる人がいないため、感想や反応をもらえるのはとても嬉しいしありがたい。
なのでこちらがありがとうと、お礼を言いたいくらいなのだ。
ガシガシと頭をかくその様子は、王子様とはほど遠い。
なのにその粗野な動きが、逆に僕に親近感を抱かせた。
「あー……、それに関しては気にしないで。本当にお菓子作りが大好きだから、食べてくれる人が喜んでくれるだけでじゅうぶんだと思うから」
これは僕の、正真正銘本音だ。
だから言葉に詰まることなく、スラスラと答えることができた。
「うーん……。そっか。じゃあ、お言葉に甘えさせてもらおっかな。お母さんに、よろしく言っといて」
まだ少し迷っている様子だったけれど、彼は僕の言葉を素直に聞き入れてくれた。
「うん、分かったよ。でも、そうだなぁ……。ありがたいって思ってくれるなら、食べた感想だけあとで聞かせてくれるかな? それが一番、喜ぶと思うから」
そう。それが僕にとって、一番のご褒美だ。
僕の考えたレシピでスイーツを作った視聴者のみんながいつも、おいしかった、ありがとうとお礼のメッセージを送ってくれる。
それが嬉しくて、動画配信などという柄にもないことを続けているといっても過言ではないくらいなのだから。
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