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甘い香りは、秘密のはじまり⑨

「分かった。うはー、楽しみすぎる! 昼休みまで、待てないかも。ほんと、ありがと!」  こうして彼は、再びクラスメイトたちの輪の中へと戻っていった。  今回の、シュークリーム。  動画で配信した際には手軽に使えるバニラエッセンスを使ったけれど、今回はきちんとバニラビーンズを使用した。  ちゃんとさやから取り出したばかりのものを使ったから、格段に香りがいいはずだ。  大路君にははじめて食べてもらうということもあり、小麦粉にもバターにもこだわっていつもよりもいい材料を使ってしまった。  だから正直にいうと、絶対にうまいといってもらえる自信がある。  彼の驚く顔を想像して、自然と表情筋が緩む。  それに気付いたから、あわてて顔を引き締めた。  そして、一限の終了間際。  教室内に漂ってきたのは、甘い甘い洋菓子の香り。  それに驚き後ろを振り返ると、教科書を立てて視界を遮るようにして幸せそうにシュークリームを頬張る大路君の姿。  感想を、聞くまでもない。あんなにも幸せそうに僕の作ったお菓子を食べてくれる人、はじめて見た。  どうしよう。めちゃくちゃ、嬉しい。  ……今回だけの関係に、したくない。     しかし残念ながら、教壇の上からもそれは丸見えだったらしい。 「おーい、大路君。……隠そうとする努力は認めるが、いま授業中だからな?」  先生の、呆れたような声が静かな教室内に響く。  そして、次の瞬間。クラスは爆笑の渦に包まれたのだった。

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