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甘い香りは、秘密のはじまり⑩
「佐藤。いま、ちょっとだけいい?」
授業が終わり、二限がはじまるまでの間の短い休憩時間。
再び大路君が、僕に声をかけてくれた。
その内容はきっと、さっきのシュークリームの感想だろう。
つい先ほどは感想を聞くまでもないと思ったけれど、やっぱり実際にそれを言葉で聞くのは嬉しい。
だから僕は、素直にその問いに答えた。
「うん。大丈夫だよ」
僕の前の席の椅子を引き、後ろ向きに座る大路君。
それから彼はニッと笑い、キラキラと瞳を輝かせながら絶賛してくれた。
「佐藤。さっきのシュークリーム、めちゃくちゃうまかった! シュー生地のサクサク感とか、カスタードクリームの甘さも絶妙。もしかしてあれ、バニラエッセンスじゃなく本物のバニラビーンズ使ってた?」
「すごいな、大路君。よく気がついたね?」
スイーツ好きといっても彼は手作りのものを食べる機会はこれまであまりなかったようだから、そこまで言い当てられたことにびっくりしてしまった。
そのため母親が作ったという設定をすっかり忘れ、素直に答えてしまった。
だけど彼も僕同様興奮状態にあったから、それには気づかれずにすんだみたいだ。
しかし、それにホッとしたのも束の間。
大路君は、まったく予想外の発言を繰り出した。
「うん。だって俺、推しのスイーツ配信者がいるから! 『PM3時の魔法使い』って、知ってる? その配信者のりとる君が以前、言ってたんだよね。バニラエッセンスも手軽でいいけど、機会があればバニラビーンズも使ってみてほしいって。黒いつぶつぶみたいなのが見えたから、もしかしてと思ってさ」
その言葉を聞き、思わずひゅっと息を呑んだ。
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