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君についた嘘②
「まさか……。佐藤、お前もりとる君のファンだったりする!?」
めちゃくちゃ前のめりなその発言に、思いっきりブフォッと吹き出した。
でも僕の唯一にして最大の秘密がバレてはいなかったことがわかり、気持ちに余裕ができた。……ほんの、少しだけ。
「佐藤……?」
大路君が、期待したような目で僕のことを見つめている。
イエスと答えるべきか、ノーと答えるべきか?
その返答に困っていたが、そこで妙案が浮かんだ。
そうだ! 僕ではなく、母さんがりとるのファンということにしておこう。
そうすればこれまでのレシピも、自然な流れで彼に試すことができる。
それに彼だって、ただ動画を見るだけで自分で作る自信はないようだから、喜んでくれるはず。
……これってある意味、ウィンウィンの関係なのてまは?
「残念ながら、僕じゃないよ。母さんが彼のファンで、よく動画を観てるんだ。だから僕も、名前くらいは知ってるっていう程度だよ」
本当は名前くらいは知っているどころか、僕がそのりとる本人なわけだが。
我ながらナイスな回答だと思ったけれど、嘘をつくのが下手な僕は、緊張のためまたしてもちょっと早口になってしまった。
でも彼は同志を見つけた興奮から、それにはまったく気が付いていないようだ。
「そうなんだ? でも、たしかに。お菓子作りが趣味の人なら、たぶんみんな知ってるよなぁ。りとる君、まじで神過ぎるもん!」
……全然神なんかじゃないよ、りとるは。君の前でめちゃくちゃ動揺しながら変な汗を垂れ流してる、地味陰キャだよ。
そんな心のつぶやきは綺麗に包み隠して、僕も笑顔で答えた。
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