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芽生えた想い④

 とはいえこんなことを言おうものなら、大路君はきっと大爆笑をして、そんなものは存在しないと答えてくれるに違いない。  でもこの壁は、確実に存在していて。  同じ教室にいて、同じ空気を吸っていても、やっぱり僕と彼とが同じ種類の人間だとはどうしても思えそうになかった。  現に今だって、なんで大路君が僕なんかと話しているのだろうと、言葉にはしないけれどみんなが不思議そうに見ているのが分かる。  ……やっぱりこんな物、渡すべきじゃなかったかもしれない。  そんなふうに落ち込みかけたタイミングで、大路君は心から嬉しそうに、笑って言ってくれたのだ。 「ありがと、佐藤! やばい、めちゃくちゃ嬉しい!」  まるでおひさまみたいな、明るい笑顔。  嘘のない心からの言葉に、沈んでいた気持ちが一気に浮上していくのを感じる。 「喜んでもらえて、良かったよ。サブレを3種類、用意したんだ。……って、母さんが言ってた。チーズ味と、チョコレート味、それからプレーン。りとる君のレシピを見て作ったらしいから、きっと気に入ってもらえると思うよ」  浮かれたせいで母さんが作ったという設定を忘れそうになり、慌てて繕うように言葉を紡いだ。  だけどすでに意識が完全に紙袋に向かってしまっている彼は、それにはまったく気がつかなったようだ。 「まじか! すっげぇ楽しみ。そんなの、絶対にうまいに決まってるじゃん!」  無邪気に笑う彼の笑顔を前に、僕の心までほっこりあたたかくなった。  だけどそこで、ふと思い出した。  この間みたいに授業中に開封して、また彼が食べだしたら困る!  だって僕の趣味がお菓子作りだと知られることで、万が一にも僕=スイーツ研究家で配信者のりとるだとバレるのは非常にまずいのだ。  そのため、条件をひとつ付け足した。 「あの、大路君! それを開けるのは、家に着いてから! 授業中に食べるのなんて、もってのほかだよ? 絶対に、禁止だからね!」

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