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芽生えた想い⑤

「えー……」 「えー、じゃないよ! また先生に叱られても、知らないからね」  まるで幼い子どもみたいに、形の良い唇をとがらせる大路君。  なんだよ? その顔。……かわいすぎるんだけど。 「分かった? 大路君。ちゃんと約束を守れたら、また母さんになんか作ってくれるようにお願いしてあげるから」  ちょっと恩着せがましい発言だっただろうかと少し心配になったけれど、それは杞憂だったらしい。  というのも彼は僕の言葉を聞き、またしても瞳を輝かせたからだ。 「分かった! 約束する!」    キラキラと輝く深いブルーの瞳は、まるで一対の美しい宝石みたいだ。  だけど輝かせているその理由を思い、ついまたクスクスと笑ってしまった。 「うん、約束。あ、そうだ。あとでまた、感想だけ聞かせてくれる?」 「もちろん! 感想文、原稿用紙に100枚くらい書けそうかも」 「大路君。……さすがにそれは、いらないかも。母さんが、困惑するよ」  あまりにも重い彼のスイーツにかける想いに、逆に僕のほうが軽く引いてしまった。    なのに同時に、こうも思うのだ。  ……こんなにも喜んでくれて、僕のほうこそめちゃくちゃ嬉しい。  だけどこの気持ちを、彼に伝えることはできない。  だってこのサブレを焼いたのは僕ではなく、母さんということになっているからだ。  僕がりとるだと教えることはできなくても、最初から僕が焼いたと素直に言えば良かっただろうか。  そんなふうに一瞬だけ考えたけれど、その時ちょうど始業のベルが鳴ったから、あわてて席に戻った。

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