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魔法にかけられて〜Side清雅〜⑤
彼は保冷剤でしっかり冷やして持ってきてくれたから、昼休みまで待ってもきっと大丈夫だったと思う。
しかし渡された中身が手作りのシュークリームなのだと思うと、居ても立っても居られなくなってしまった。
なので結局昼休みを待つことなく、一限の途中でこっそり袋を開けた。
その甘い芳香を嗅いだら、ますます我慢できなくなった。
立てた教科書で視界を遮るようにして、ひとつ取り出す。
それをひとくち口にした瞬間、口内に一気に甘いクリームの幸せな味が広がった。
シュー生地はさっくりしているのに、適度な甘さの中のカスタードクリームはしっとりなめらか。
濃厚なバニラの香りの元はきっと、バニラエッセンスじゃない。
黒いつぶつぶが断面から覗いているから、以前りとる君がオススメしていた、バニラビーンズを使っているに違いない。
貪るようにして、シュークリームを頬張る俺。
1個だけのつもりが、気付くと2個目に手を伸ばしていた。
その現場をおさえられ、先生に叱られてしまったが、悔いはない。
休憩時間になり、我慢できずにまたしても佐藤に声をかけた。
いかにシュークリームがうまかったか、熱く語る俺。
さすがに少し引かれてしまっただろうかと途中で不安になったが、彼はおかしそうにクスクスと笑ってくれた。
そこで調子に乗った俺は、りとる君について触れると、佐藤はなぜか一瞬チベットスナギツネみたいな虚無顔になってしまった。
その理由が気にはなったけれど、そんな疑問は一瞬のうちに霧散した。
というのも彼の母親もまた、りとる君の配信の視聴者だったからだ。
なのでもらった激ウマシュークリームも、もしかしたらりとる君のレシピにそって作られたものだったのかもしれない。
そう思うと、一気に2個食いしてしまったことが悔やまれる。
……もっと、味わって食えばよかった。
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