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それは、ケーキよりも甘い⑤
そうこうしている間に、キッチンに漂い始めた焼きたてのスポンジ生地の香り。
オーブンの扉を開けて中を確認すると、いい感じのきつね色に焼き上がっていた。
それをミトンを使って取り出し、竹串を使って生焼けじゃないかの確認をする。
ちゃんと焼き上がっているようだったから、スポンジ生地は冷ますためにいったんケーキクーラーの上に移動させた。
彼にだけ伝わるように、特別な想いを込めて。
ひとつひとつの工程にも、いつも以上の愛を乗せて。
こうして出来上がったバースデーケーキはかつてないほどの完成度を誇り、見た目も美しい極上の逸品となった。
「ではこれから僕はこのケーキを、王子様に届けてこようと思います。本日もご視聴いただき、ありがとうございました!」
配信終了のボタンを押して、大きく深呼吸をひとつ。
彼と仲の良い友人に自宅の場所は教えてもらっているから、これからこのケーキを持って、彼に想いを伝えに行こう。
失恋したとしても、別に構わない。だって僕は、はなから受け入れられるなんてほんの少しも考えてはいないから。
……でもこの気持ちを、なかったことにだけはさせてあげない。
***
『ピンポーン』
ドキドキしながらケーキの入った箱を手に、大路君の自宅のインターホンを押した。
勝手に家まで教えてもらって、本当に大丈夫だっただろうか?
それに、そもそもの話。……彼にはすでに大切な人がいて、デートの最中かもしれないのに。
さっきまでは完全に魔法使いのりとるモードだったからできた、数々の言動。
だけど素の自分に戻った途端、急にまた自信がなくなってしまった。
だから渡すのを諦め、このままもう帰ろうかと考えてUターンした瞬間。……玄関のドアが、勢いよく開いた。
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