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それは、ケーキよりも甘い⑥

「待って!」  大路君が腕を伸ばし、僕の手首を掴む。  こうして彼に触れられるのは初めてのことだったから、驚きすぎて完全に身動きが取れなくなってしまった。  彼の顔をちゃんと見るのが、こわくてたまらない。  そのため彼が何を考えているのかまったくわからなくて、不安な気持ちがますます大きくなっていく。   「佐藤。……ちゃんと、こっちを向いて」  彼の言葉に従い、ゆっくり彼のほうを向く。  すると彼は僕の手首から手を離し、代わりに鼻の頭を思いっきりぎゅっと摘んだ。 「!?」  あまりにも予想外な行動に驚き、じっと大路君の顔を凝視する僕。  すると彼はククッとおかしそうに笑いながら鼻から手を離し、僕の体を強く抱き寄せた。 「よかった、やっと目が合った」  さらなる意味不明な展開に、大パニックに陥る僕。  でもびっくりしすぎたせいで逆に、やっぱり指先ひとつ動かすことができない。 「佐藤、メリークリスマス。それって俺あての、バースデーケーキだよな?」  耳元で、笑いながら甘く囁かれた。  だから僕はまるで魔法にかけられたみたいに、ただ小さくコクリとうなずいた。  すると彼はようやく僕の体を解放してくれて、片手を僕に向かい差し出した。  脳が完全にショートしてしまっていたから、その行動の意図が分からず、ただポカンと口を開けてもう一度彼の顔を見上げた。   「そのケーキ、俺にくれるんじゃねぇの?」  ようやくその意図を理解したから、あわてて紙袋を彼に手渡した。 「ありがと、佐藤。めちゃくちゃ嬉しい。でもお前、俺になにか言わないといけないことがあるんじゃね?」  ……にっこりと笑っているけれど、圧がすごい。  だから僕は観念して、ギュッと目を閉じたまま告げた。 「大路君。……僕は君のことが、好きです。大好きです!」

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