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それは、ケーキよりも甘い⑦

 訪れた、無言の時間。いたたまれなくなり、そろりと目を開けた。  すると彼は真っ赤な顔でうつむき、口元に手を当てたまま、なぜか悶絶していた。 「あのぉ……、大路君? 大好き……です」  恐る恐る再び口にした、愛の告白。  すると彼は赤い顔のまま僕を見下ろし、いつになく早口で答えた。 「聞こえてる。……ちゃんと全部、聞こえてるから!」 「そっか、よかった。ありがとう、聞いてくれて。ハッピーバースデー、大路君。……じゃあ僕は、これで失礼します」  ぺこりと大きく、お辞儀をして。脱兎のごとく、その場から逃げ出そうとする僕。  すると大路君は、あわてた様子で再び僕の手首を掴んだ。 「待て待て、佐藤! なんでこの流れでお前は、とっとと帰ろうとするんだよ!?」  だから僕は彼の問いにたいして、思ったとおり答えた。 「だってもう、目標は達成できたから。ケーキも渡せたし、告白もしたもん」 「もんってなんだよ、もんって! 俺のことを、キュン死させる気か! ……天然、まじで恐ろしいな」  その言葉の意味が分からず、首をかしげる僕。  がっくりと、脱力する大路君。 「俺が聞きたかったのは、もっと別のこと! もちろん告白は嬉しかったけど、いろいろとすっ飛ばしすぎじゃね?」  その発言で、ようやく理解した。 「あぁ……、うん。たしかに。えっと……。僕がりとるだってこと、ずっと隠しててごめんなさい」  もう一度大きく頭を下げると、彼の大きな手のひらが僕の髪に触れ、くしゃくしゃとやや乱暴に撫でてくれた。 「たいへんよくできました。俺のほうこそ、あの日、酷い態度をとってごめん。……それから俺も、佐藤のことが好き。りとる君なお前も、そうじゃないお前も」  そのまま僕の長い前髪をかきあげて、軽く触れた柔らかな感触。  ……今のってまさか、大路君の唇!?  その正体に気付き、おでこを両手で押さえたまま全力で後退した。 「おーい、佐藤? その反応、さすがにちょっと傷付くんだけど。俺とお前は、両想いだよな?」  じっと顔を、のぞき込まれて。……今度は彼の唇が、僕の唇に触れた。 「へ……?」  あまりにも耳慣れないワードに、おおいに困惑する僕。  すると大路君は、あきれたようにいった。 「順を追って、確認しよっか?」

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