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第3話 中の人防衛戦③
染谷が風呂場から上がると黒部はおそろいのバスローブのまま、冷蔵庫から取り出した缶ビールを飲みつつテレビを見ていた。
「長風呂だな」
「誰のせいだと思ってるんですか?」
「お前だろ。中に欲しいとかねだるから」
にやにやと黒部が笑う。
染谷は黒田と先ほどまで一緒に入っていた風呂場の痴態を思い出して、羞恥で顔を赤らめてどかっと黒部の隣に座った。
「だ、大体からして黒部さんがいっつも俺を生掘りするからでしょ。後始末が大変なんです。ゴムつけてくださいよ」
「商品とやるときゃつけてるぜ。ガキなんかこさえてキズモンにするわけにはいかねえからな」
「俺は商品じゃないんですか」
「商品は商品でも、消耗品じゃねえだろ。お前は|会社(組)の備品だ。お前が壊れるときは俺もただじゃ済まねえ。一蓮托生。そのつもりで本番やってんだ。ビョーキになったら一緒にモグリの医者行こうぜ。その手の類では腕のいい奴を知ってる」
「やだなあ。そんな伝手」
ローテーブルの上には食べ散らかされた痕があった。その中から炭酸の抜けたビールを染谷は口に運ぶ。一時間ほど前まで黒部と食事をしていた最中だったのだ。急にムラついたらしく、風呂に連れ込まれた。今はやることをやって二人とも顔つきはすっきりしていた。
テレビでは昼間にやっていたラーメン店の店主殺害事件についての続報を告げている。さすがにもう彼の本職は嗅ぎつけられて、隠されていなかった。
なぜ、誰が、彼を殺したのか。
ミステリー小説ならここから物語が始まる。
だが染谷は一歩も自由に外へはいけない身分だ。かといって安楽椅子探偵など現実にはできるものでもない。せいぜいユメミの『雑談』で話題になったところに無責任に乗っかる程度の事だった。
抗争、暗殺、排除……憶測が飛び交った。
たぶん何人か本職の人がいるので、話の中身にはかなり信憑性がある。店長は組織の思い通りの駒にならないことで粛正されたのではないか。染谷は界隈の内の一人としてそういう見方をした。
この時の「おとうふさん」は聞き手に回って比較的口数が少な目だった。普段は政治や経済、芸能界のネタの時などは割と饒舌なのに。ただ最終的にはユメミと同じラインでこの事件を見ているとはわかった。
理由は、今の頭が割と狭量な人間らしいからだ、と。
そんな情報は界隈の中にいなければ、それも組長を直接知る人間でなければわからない。染谷は彼自身がヤクザかその近縁の業界に生きている人間だと見た。
おもむろに黒部が染谷の肩を抱いてくる。
染谷はぐいっと引き寄せられて軽くキスをされた。
唇が離れた後、黒部は少し本性が現れた真面目な目つきで染谷を見る。
「なあ。お前に聞きたいことがある」
「なんですか?」
「副業の件だ。俺はお前の好きにさせるつもりだったが、額がそうも言ってられなくなった」
「今日の営業会議で言われたんですか?」
「本家の親父が興味を持ち出してな。あいつは割と狭量な人間だ。儲かるとわかれば自分の縄張りに引き込もうとしやがる」
だから黒部としては具体的な中身を知っておきたいという。その上で説明を求められたらメリットを過少に、デメリットを過大に説明して、特殊な成功例であると印象付けたいのだという。
一方で染谷の方はというと、めんどくさい、としか思えなかった。
まずユメミの件は話せない。
配信内容には守秘義務に軽くふれるようなこともあるからだ。界隈やそこに所属する組織の内情を売っていると思われるのはよくない。これは知られてはならなかった。
「まず生成AIっての? それがどんなもんかみせてもらえるか?」
なのにそんなことを言われて染谷はしぶしぶと立ち上がってPCの方へと歩いて行った。
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