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第5話 全て世は大団円③

 かつん。  庭に面した二十畳ほどの和室から眺める日本庭園で、鹿威しが水音を響かせて鳴った。 開け放たれた障子戸から麗らかな初春の光が差し込む。幸いに風はなく、冷えた空気があたりに漂っていた。 再びカツン、と鹿威しの音が鳴る。 「君が……染谷君か」  今日は渋い灰銀のスーツを着た本家組長は、畳三枚分を挟んで正座する染谷を舐めるように見た。対する染谷は神妙に、少し俯き加減でじっとしている。 いつもずらりと並ぶ若頭や組長衆はそこにいない。染谷の近くに控えているのは黒部一人で、組長の傍らには若頭が座していた。 「でかい男やのう」  組長がにやにやと笑う。  基本的には、明確な問いがあったとき以外は答えるな、と黒部には言い含められていた。まるで妖怪に対する扱いのようだ。しかし、何も返さないのも組長の機嫌を損ねるだろうか、と染谷は軽く頭を下げた。  きれいに撫でつけられた前髪が、サラリと一房額にかかる。ろくに外に出ることもないせいで伸びっぱなしだった髪は、何年かぶりに散髪店で整えられていた。その散髪店は、本家の組長や若頭もよく利用するところで、店主の親父は本家組長の好み(・・)をよく知っているらしい。その髪型で、長い手足によく似合う黒いスーツを着こなしていた。  組長の視線には好色な興味が湧きたち、隣に座る若頭からの殺気に満ちた視線が染谷に向けられた。その若頭に対して、黒部の牽制する睨みが向けられている。三竦みならぬ四竦みの状態に、染谷は居心地の悪さから胃が痛くなってきた。 「アイテー使(つこ)うてるて聞いとるけど、儲かるんかいな?」 「使い方によっては」 「具体的には?」 「株とか……動画配信、とか……創作とか……」 「今、どこに住んどるん?」 「黒部の兄貴の持ってるマンションで暮らしてます」 「贅沢させてもろとるか?」 「それなり、には……」 「それなり、か。どや、不動産とかに興味はないか?」 「は?」 「管理が必要な物件がいくつかある。そこに住みながら、そのアイテーいうのを使(つこ)うて、本家(うち)の管財をしてほしいんや」 「それは……」  染谷はちらっと黒部を見る。前評判通りの展開に、黒部はギリッと歯を食いしばっていた。  断れば、組長の機嫌を損ねる。  受ければ、若頭の嫌がらせを受ける。  どちらにしても地獄しかない。  どうするか。  染谷が返答を迷う、その時だった。 「若頭……ッ!!」  外廊下を黒服の組員が足早に入ってくる。彼は鋭く若頭に声をかけると、恐れと命令による心理的規制を踏み越えて彼に近づき、何かを耳打ちした。  ニヤリ……。  誰にも気づかれないように少々俯いた染谷は、いやらしい笑みを浮かべる。  すぐに無遠慮な足音が近づいてきた。それを押しとどめようとする一団の怒号と、それを押しのけようとする一団の怒号がぶつかり合う。どちらかが、いわゆるマル暴とか刑事課なんて呼ばれる国家権力機関(警察)であるはずだが、言葉遣いだけを聞いていると、どちらがどちらなのか染谷にはわからなかった。  その一団の中から、一番貫禄がある男が飛び出してくる。 「おどれ! 誰の前に立っとると思とるんや!」  組長が恫喝するが、男は目もくれない。胸元から取り出した令状を若頭の前に広げ、彼を逮捕しに来た旨を告げた。  罪状は『ラーメン店店主殺害の容疑』だった。

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