5 / 27
第5話 怪しげな副業に挑む夜
数日後――
駅前のビルの前で立ち止まる。思ったより普通のオフィスビルで、少しだけほっとする。
エレベーターで上階に上がり、事務所のインターホンを押すと、一人の男性が出てきた。
「圭さんだよね? 来てくれてありがとう」
「はい……こちらこそ、よろしくお願いします」
声が少し震える。男性はにこやかに笑い、奥の応接スペースへ案内してくれた。
ソファーに腰を下ろすと、すぐにコーヒーを淹れてくれる。
「仕事帰りだよね? 疲れてない?」
「はい、まあ……ちょっと」
「最近はどこも忙しいからね。僕も昔は会社勤めだったし、気持ちはわかるよ」
思ったより話しやすい人だ。俺は少し肩の力を抜き、周囲を見回す。
パソコンには会員制サイトの画面が開かれていた。
「聞いてると思うけど、うちでは男性向けの動画のモデルをお願いしてるんだ。もちろん強制じゃないけど」
「そうなんですね……」
「希望すれば顔出しもできるし、その場合は報酬も少し上がる」
「なるほど……」
契約書を手渡され、ざっと目を通す。
報酬や撮影内容、個人情報の扱いまで丁寧に書かれていて、少し安心する。
「うちのサイトだけじゃなく、会員制の交際クラブも運営してるんだ。いわゆるパパ活に使う方もいてね」
「パパ活……ですか」
あいつが言っていた“パトロン”って、こういうことか、と頭をよぎる。
胸がざわつく。まだ自分には遠い世界の話のはずなのに、現実として目の前に提示されている。
「もちろん、動画撮影だけでも十分に稼げるし、無理に交際クラブに関わる必要はないよ」
「……はい、わかりました」
説明が終わると、男性は奥の撮影スペースへ案内した。ベッド、カメラ、照明。どれも清潔で、プロ仕様の印象だ。
「まずは自己紹介からやってみようか」
「……わかりました」
でも男性の柔らかい声と笑顔に、少しだけ気持ちが落ち着く。
「はじめまして、ケイです。よろしくお願いします」
声が少し震える。手のひらに汗がにじむ。
「うん、自然でいいね。その調子」
「ありがとうございます……」
「では、ゆっくりスーツを脱いで。焦らなくて大丈夫だから」
やっぱり、脱ぐのか――。
ここまで来た以上、覚悟を決めるしかない。
「緊張してる?」
「……はい。初めてなので」
「大丈夫。みんな最初はそうだよ。すぐ慣れる」
落ち着いた声に促されるまま、俺は無言でジャケットを脱いだ。
ネクタイを緩め、指先でシャツのボタンを一つずつ外していく。
小さな音が、やけに耳に響く。
ベルトの金具に手をかけ、ためらいながら外す。
ズボンが滑り落ちる感覚と同時に、心臓がどくんと跳ねた。
恥ずかしい――でも、もう逃げる場所なんてない。
「じゃあ、次はベッドでの撮影もやってみようか。大丈夫?」
次の指示が告げられ、胸が大きく跳ねた。
「……えっ、はい……」
頭では「大丈夫」と言っているのに、心臓はバクバク鳴る。
初めての仕事、初めての体験。目の前のベッドを見ただけで、全身が勝手に緊張する。
交際クラブやパパ活のことがちらつき、体の奥はぎゅっと固まるような感覚。
「じゃあ、下着も、全部脱いで」
男性の柔らかい声と視線に押されるように、俺は息を整え、覚悟を決めた。
「それじゃ、自慰行為してほしいんだけど、できる?」
「え……?」
ともだちにシェアしよう!

