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第5話 怪しげな副業に挑む夜

数日後―― 駅前のビルの前で立ち止まる。思ったより普通のオフィスビルで、少しだけほっとする。 エレベーターで上階に上がり、事務所のインターホンを押すと、一人の男性が出てきた。 「圭さんだよね? 来てくれてありがとう」 「はい……こちらこそ、よろしくお願いします」 声が少し震える。男性はにこやかに笑い、奥の応接スペースへ案内してくれた。 ソファーに腰を下ろすと、すぐにコーヒーを淹れてくれる。 「仕事帰りだよね? 疲れてない?」 「はい、まあ……ちょっと」 「最近はどこも忙しいからね。僕も昔は会社勤めだったし、気持ちはわかるよ」 思ったより話しやすい人だ。俺は少し肩の力を抜き、周囲を見回す。 パソコンには会員制サイトの画面が開かれていた。 「聞いてると思うけど、うちでは男性向けの動画のモデルをお願いしてるんだ。もちろん強制じゃないけど」 「そうなんですね……」 「希望すれば顔出しもできるし、その場合は報酬も少し上がる」 「なるほど……」 契約書を手渡され、ざっと目を通す。 報酬や撮影内容、個人情報の扱いまで丁寧に書かれていて、少し安心する。 「うちのサイトだけじゃなく、会員制の交際クラブも運営してるんだ。いわゆるパパ活に使う方もいてね」 「パパ活……ですか」 あいつが言っていた“パトロン”って、こういうことか、と頭をよぎる。 胸がざわつく。まだ自分には遠い世界の話のはずなのに、現実として目の前に提示されている。 「もちろん、動画撮影だけでも十分に稼げるし、無理に交際クラブに関わる必要はないよ」 「……はい、わかりました」 説明が終わると、男性は奥の撮影スペースへ案内した。ベッド、カメラ、照明。どれも清潔で、プロ仕様の印象だ。 「まずは自己紹介からやってみようか」 「……わかりました」 でも男性の柔らかい声と笑顔に、少しだけ気持ちが落ち着く。 「はじめまして、ケイです。よろしくお願いします」 声が少し震える。手のひらに汗がにじむ。 「うん、自然でいいね。その調子」 「ありがとうございます……」 「では、ゆっくりスーツを脱いで。焦らなくて大丈夫だから」 やっぱり、脱ぐのか――。 ここまで来た以上、覚悟を決めるしかない。 「緊張してる?」 「……はい。初めてなので」 「大丈夫。みんな最初はそうだよ。すぐ慣れる」 落ち着いた声に促されるまま、俺は無言でジャケットを脱いだ。 ネクタイを緩め、指先でシャツのボタンを一つずつ外していく。 小さな音が、やけに耳に響く。 ベルトの金具に手をかけ、ためらいながら外す。 ズボンが滑り落ちる感覚と同時に、心臓がどくんと跳ねた。 恥ずかしい――でも、もう逃げる場所なんてない。 「じゃあ、次はベッドでの撮影もやってみようか。大丈夫?」 次の指示が告げられ、胸が大きく跳ねた。 「……えっ、はい……」 頭では「大丈夫」と言っているのに、心臓はバクバク鳴る。 初めての仕事、初めての体験。目の前のベッドを見ただけで、全身が勝手に緊張する。 交際クラブやパパ活のことがちらつき、体の奥はぎゅっと固まるような感覚。 「じゃあ、下着も、全部脱いで」 男性の柔らかい声と視線に押されるように、俺は息を整え、覚悟を決めた。 「それじゃ、自慰行為してほしいんだけど、できる?」 「え……?」

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