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第6話 初めて売ったもの ※

「え……じ、自慰って……」 「あぁ、オナニー動画のことだよ。大丈夫、焦らなくていい」 ……自分のオナニー動画を録る、って。頭の中が真っ白になる。 「そ、それは……」 「報酬もアップするし、公開されるのは会員だけだから安心して」 ため息をつき、渋々ベッドに腰を下ろす。 胸の奥がざわざわして汗がにじむ。 「じゃあ、始めるね。途中で指示を出すときは止めるから、それ以外はいつも通りで大丈夫」 “いつも通り” ……いや、こんなこと、仕事で疲れた体ではしてないし。 ましてや人前でなんて一度もない。 ベッドに体を預け、心の中で「生活のため」と自分に言い聞かせる。逃げ出したい気持ちと、覚悟を決める気持ちがせめぎ合う。 「初々しさも大事だ。演技はなしでね」 小さくうなずき、そっと寝転がる。 左手で自分のものを握ると、久しぶりの感覚に体が反応し、顔が熱くなる。 「ぁ……っ……」 少し足を開いて手を動かすと、羞恥と戸惑いが混ざって心臓が早鐘のように打つ。 「圭さん、ローション使ってみる?」 「え……?」 「いいよ、これ。手につけて、やってみよう」 差し出された小さな容器を受け取り、掌に垂らす。 動きを再開すると湿った音がして、体の奥が熱くなる。 「……っ、あ、ぁ……」 気持ちいい。初めてのことに戸惑いながらも、どこかで微かな好奇心が芽生える自分を意識する。 男の視線が優しく背中を押してくれるようで、羞恥で体が硬直する一方、少しずつ呼吸が落ち着いていく。 「んっ……あぁっ……」 左手の中のものが脈打ち、俺は精液を吐き出した。 ぽたぽたと散った白濁液をカメラに収める男。 「お疲れ、いい感じで撮れたよ」 撮影が終わった後、俺はシャワーを浴びて服を着た。 鏡に映る自分の顔は、いつもより赤い。 「お疲れ様。初めてなのに、よく頑張ったね」 「……ありがとうございます」 「報酬はこれね」 男が封筒を差し出す。開けると、予想以上の札が入っていた。 ――五万円。 たった数十分の撮影で、会社の残業代一ヶ月分以上。 「……ありがとうございます」 「動画は会員限定で公開するから、外に漏れる心配はないよ。顔も映してないしね」 「はい……」 「また次回もよろしくね。慣れてきたら、もっと稼げるようになるから」 「はい……」 事務所を出て、駅へ向かう。 夜の街は、いつもと同じ景色なのに、何かが違って見えた。 ポケットの中の封筒が、妙に重い。 スマホを取り出す。通帳アプリを開いて、残高を確認する。 五万円が加われば、今月はなんとか乗り切れる。 「……これで、少しは楽になる」 そう呟いて、俺は電車に乗り込んだ。 でも、胸の奥にもやもやとした感情が残った。 恥ずかしさ。後悔。罪悪感。 そして――少しの安堵。 窓に映る自分の顔を見つめながら、俺は小さくため息をついた。

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