7 / 27

第7話 未知との邂逅

先日、男性専用サイトの動画撮影を担当した運営者から、一本のメッセージが届いた。 “圭さんにお会いしたいと仰る会員様がいらっしゃいまして。ぜひ一度お話だけでも、と。 事務所までお越しいただけませんか? 謝礼はお支払いします。” 最初は、迷うことなく断るつもりだった。 けれど――「話を聞くだけなら」と、自分に都合のいい言い訳をしてしまった。 気づけばもう、指定された住所へ向かう電車の中にいた。 前回の撮影から、まだ数日しか経っていないのに、こんなに早く次の連絡が来るなんて思いもしなかった。 正直、あの動画のことは思い出したくもない。 人生で一番、恥ずかしい時間だった。 でも、報酬の額を聞いてしまえば――断る理由なんて、どこにもなかった。 金が欲しい。それが今の俺の、動かしようのない現実だ。 「圭さん、わざわざありがとう」 事務所に入ると、前回撮影を担当したスタッフの男が笑顔で迎えてくれた。 促されるままソファに腰を下ろすと、彼は少し離れたキッチンでコーヒーを淹れ始める。 静かな湯気の音が、妙に現実味を帯びていた。 「今日はお仕事どうだった?」 「まあ……いつも通りです」 実際は、今日も上司に怒鳴られて、資料の作り直しを三回やらされた。 胃薬が手放せない毎日……でも、そんなことを話しても意味はない。 「どうぞ」 差し出されたカップを受け取り、軽く頭を下げて口をつけた。少し苦い香りが喉に広がる。 「早速だけど、圭さん、すごい人気だよ。公開してすぐに、いくつか問い合わせがあって」 「……そうなんですか」 人気――。 その言葉に、嬉しいような、嫌なような、複雑な気持ちになる。 「特に、“ぜひ圭さんに会いたい”と強く希望されている方がいて。しかも、かなり高額な紹介料を提示してるんだよ」 「高額って……どのくらいですか?」 「正直、僕も驚くほどかな。この業界でも滅多にない金額で。お相手は若い起業家の方だね。年齢は圭さんと同じ」 同い年で、起業家。 こっちは会社員で、毎日ギリギリで生きてるっていうのに。 人生って、ほんと不公平だな。 「……その人、どんな方なんですか」 「誠実そうな方だよ。身元もはっきりしてるし、言葉遣いも丁寧で。いわゆる”優良会員”だね」 “優良会員”。 つまり、金払いのいい客ってことだろう。 運営にとって大事なのは、俺の心じゃなくて、金の流れなんだ。 「圭さんがOKなら、すぐにセッティングするよ。もちろん報酬も、かなり期待できるよ」 男の言葉に、俺はしばらく黙り込んだ。 報酬……それさえあれば、今月の家賃も払える。 でも、知らない男と――会う? 怖さと、好奇心と、どうしようもない現実が絡み合って、答えが出ない。 「……少し、考えてもいいですか」 「もちろん。ただ、相手の方も”今日中にでも返事が欲しい”と仰っててね」​​​​​​​​​​​​​​​​

ともだちにシェアしよう!