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第7話 未知との邂逅
先日、男性専用サイトの動画撮影を担当した運営者から、一本のメッセージが届いた。
“圭さんにお会いしたいと仰る会員様がいらっしゃいまして。ぜひ一度お話だけでも、と。
事務所までお越しいただけませんか? 謝礼はお支払いします。”
最初は、迷うことなく断るつもりだった。
けれど――「話を聞くだけなら」と、自分に都合のいい言い訳をしてしまった。
気づけばもう、指定された住所へ向かう電車の中にいた。
前回の撮影から、まだ数日しか経っていないのに、こんなに早く次の連絡が来るなんて思いもしなかった。
正直、あの動画のことは思い出したくもない。
人生で一番、恥ずかしい時間だった。
でも、報酬の額を聞いてしまえば――断る理由なんて、どこにもなかった。
金が欲しい。それが今の俺の、動かしようのない現実だ。
「圭さん、わざわざありがとう」
事務所に入ると、前回撮影を担当したスタッフの男が笑顔で迎えてくれた。
促されるままソファに腰を下ろすと、彼は少し離れたキッチンでコーヒーを淹れ始める。
静かな湯気の音が、妙に現実味を帯びていた。
「今日はお仕事どうだった?」
「まあ……いつも通りです」
実際は、今日も上司に怒鳴られて、資料の作り直しを三回やらされた。
胃薬が手放せない毎日……でも、そんなことを話しても意味はない。
「どうぞ」
差し出されたカップを受け取り、軽く頭を下げて口をつけた。少し苦い香りが喉に広がる。
「早速だけど、圭さん、すごい人気だよ。公開してすぐに、いくつか問い合わせがあって」
「……そうなんですか」
人気――。
その言葉に、嬉しいような、嫌なような、複雑な気持ちになる。
「特に、“ぜひ圭さんに会いたい”と強く希望されている方がいて。しかも、かなり高額な紹介料を提示してるんだよ」
「高額って……どのくらいですか?」
「正直、僕も驚くほどかな。この業界でも滅多にない金額で。お相手は若い起業家の方だね。年齢は圭さんと同じ」
同い年で、起業家。
こっちは会社員で、毎日ギリギリで生きてるっていうのに。
人生って、ほんと不公平だな。
「……その人、どんな方なんですか」
「誠実そうな方だよ。身元もはっきりしてるし、言葉遣いも丁寧で。いわゆる”優良会員”だね」
“優良会員”。
つまり、金払いのいい客ってことだろう。
運営にとって大事なのは、俺の心じゃなくて、金の流れなんだ。
「圭さんがOKなら、すぐにセッティングするよ。もちろん報酬も、かなり期待できるよ」
男の言葉に、俺はしばらく黙り込んだ。
報酬……それさえあれば、今月の家賃も払える。
でも、知らない男と――会う?
怖さと、好奇心と、どうしようもない現実が絡み合って、答えが出ない。
「……少し、考えてもいいですか」
「もちろん。ただ、相手の方も”今日中にでも返事が欲しい”と仰っててね」
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