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第10話 あの日の痛み、今夜の恐怖

顔を見た瞬間、体が固まる。 明るい髪、形のいい鼻、整った目――でも、どこか見覚えのある顔だ。 まさか…… 「輝!?」 思わず声が出てしまい、慌てて口を押さえる。 「お、やっぱり圭だ」 目の前に立つ輝は、昔と変わらない笑顔を向けている。 「久しぶり。さ、入ってよ」 でも、心の中は混乱していた。 告白は冗談だから、と笑い飛ばされ、嘘だと言われて傷ついたあの日の記憶――何年経っても癒えなかった痛みが、胸の奥でざわつく。 しかも今――俺を指名してきた「起業家」が、輝だという。 あの動画を見たんだよな。自分の体を晒した、あの屈辱的な瞬間を。 「な……いや……」 言葉が詰まり、視線を逸らす。 心拍数が上がり、どう反応すればいいのか分からない。 それでも輝は変わらず笑顔で、手を差し伸べる。 「とりあえず入れよ」 その軽やかな声が、俺の心をさらに揺さぶる。 「……なんで、輝が……」 怒りとも悲しみともつかない感情が入り混じる。 昔の傷が、今も鮮明に痛む。 「まさか、こんな形でまた会えるなんてな」 その言葉に、言葉にならない苛立ちが胸を締めつける。 「ほら、早く入って」 有無を言わせず腕を取られ、スイートルームに引き入れられる。 「っ……」 息をのむ。広くて綺麗な部屋。俺のアパートの三部屋分はありそうだ。 「……うわ……」 窓の外には、宝石のように輝く夜景。最上階って、こういう場所なのか。 「驚いた?」 「……あ、当たり前だろ。こんな部屋、初めて見る」 「まあ、特別な時にしか使わないけどね」 ――特別な時。 まさか俺との再会を“特別”と呼ぶなんて。 素直に喜べるはずもなかった。 輝はソファーに腰を下ろし、隣を手で示す。 促されるままそこに座る。 深く沈み込むソファーの感触だけで、緊張が増してしまう。 「飲み物、何がいい? シャンパンとかワインとか……」 「いや、いい」 頭を整理できず、酒なんか飲む気にはなれなかった。 「会いたかったよ、圭」 真っ直ぐに向けられたその言葉に、胸の奥がぎゅっと掴まれる。昔と同じ声。 でも――あの日、俺に“嘘”だと言ったその口から、この言葉が出るなんて。 「輝、あのさ」 「なに?」 「……お前……俺の動画、見たんだよな?」 「うん。見た」 あっさり、悪びれもせずに。 「……マジかよ……」 穏やかな声が「マジだよ」と耳に届く。 よりによって、輝に――。 一番見られたくなかった相手に、すべて見られたなんて。 顔が熱くなる。あの映像を思い出すたび、胃の奥がきりきり痛む。 「……輝は……なんで俺なんかを……」 視線を向けると、輝は穏やかに笑うだけで何も答えない。沈黙が余計に怖い。 まさか……脅す気なのか? あの動画、周りにバラされたらどうする……。 頭をよぎる恐怖に、全身が冷たくなる。 一度信じて、傷ついた相手――だからこそ、また裏切られるのが怖かった。

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