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第11話 また、傷つく夜
「……俺を脅したところで、金なんかないから」
言葉が出た瞬間、自分でも情けなくなる。
でも、あの動画を見られた相手が輝だなんて、どう受け止めればいいのかわからなかった。
「え? 脅す?」
拍子抜けしたような声。
まるで、そんなこと思ってもみなかったみたいな顔。
……演技か? それとも本気で言ってるのか。
「あの動画の件、バラしたければバラせばいい。噂になっても、問題ないから」
本当は、そんなことない。
できることなら、誰にも知られたくない。
でも、俺がそういう道を選んだんだ。自業自得だ。
「じゃあな。俺、帰るわ」
立ち上がろうとした瞬間、腕を掴まれた。
「待って、圭」
強くも優しい手の力。その温かさに、心臓がどくんと跳ねる。
そのまま引かれて、身体が少し傾く。
「せっかく会えたんだ。帰すつもりはない」
俺の顔をまっすぐ見てくる。
その視線があまりに真剣で、逃げ場がなかった。
「圭、覚えてるか? 高校の時のこと」
「……当たり前だろ、忘れるわけないじゃん」
声が、少し震えた。
「俺もだよ。ずっと、お前のことを考えてた」
……何を、今さら。
そんな言葉、今になって聞かされても困る。
「なんだよ、それ。意味わかんねぇ」
あの頃の痛みも、悲しさも、全部ごちゃまぜになって、頭の中がぐしゃぐしゃになる。
少しの沈黙のあと、輝がゆっくりと口を開いた。
「なぁ、圭。なんでサイトに登録してんの? あの動画は……」
「……バイトだよ」
「バイト?」
輝の声には、驚きよりも何かを確かめようとする響きがあった。
「金が必要だったから。それだけ」
ほんとは“それだけ”で済ませられる話なんかじゃない。
でも、説明したところで理解なんてされないだろう。
輝が少し間を置いて、静かに訊いてくる。
「……金って、どれくらい必要なんだ?」
視線を合わせるのが怖くて、俯いたまま言葉を継ぐ。
「お前に言うことじゃない」
それでも、輝はすぐに落ち着いた声で言葉を続けた。
「なぁ、詳しく話してくれよ」
その一言が、胸の奥をチクリと刺す。
……ほんと、そういうとこだよ。
踏み込んでほしくない場所を、ためらいもなく見透かしてくる。
「……どうせ、お前にはわからないから。話す意味なんかねぇよ」
吐き出した声が、自分でも驚くほど冷たく響いた。
成功した“起業家”の輝に、今の俺の惨めさなんて理解できるわけがない。
「……意味があるかないかなんて、話してみなきゃわかんねぇだろ」
静かに、けれど有無を言わせない声だった。
あの頃みたいな軽さはなく、真っすぐな意志の色を帯びている。
「うるさい、同情なんかいらねぇ。離せよ」
言葉とは裏腹に、掴まれた腕から逃げられない。
その手の温度が、あまりにもリアルで。
過去の記憶と今の現実の境界が、曖昧になっていく。
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