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第12話 画面の向こうの君 ※
side 安堂 輝
静かに圭を見つめていた。
あの頃と変わらない顔、細くて真面目そうな仕草。
自宅のソファーで、スマホを手にした夜のことを思い出す。
朝から晩まで投資先の企業との打ち合わせだった。
新規事業の提案、収支計画の見直し、経営陣との交渉。数字と人間関係に追われる日々。
起業して五年。最初は小さなベンチャー投資から始めて、今では数億円規模の案件を動かすまでになった。
金はある。地位もある。
でも――満たされない何かが、いつも胸の奥にある。
通知を見ると、俺が会員になっている男性専用サイトから新着の知らせが来ていた。
別に今すぐ出会いを求めていたわけじゃない。
興味本位で会員になっただけ。暇つぶしにしては高い会費だが、金はあるから問題なかった。
会員限定の動画は少し刺激的で、仕事で疲れた頭をリセットするのにちょうどいい。
最近は仕事ばかりで恋愛から遠ざかっていたから、こういうのも悪くない……そう思っていた。
【新人】会社員・男性経験なし・初撮影
「ふーん……」
ありがちなタイトルだと思いながら、再生ボタンを押す。
画面に映るのは、細身で少し猫背の青年。顔は映っていない。
緊張した声で、「はじめまして、ケイです。よろしくお願いします」と言った。
……その声を聞いた瞬間、息が止まった。
「……え?」
スマホを持つ手が震える。
声のトーン、語尾の癖、息の抜き方――全部覚えてる。
「……嘘だろ」
俺は思わずスマホの画面を近づけた。
この声、この話し方。緊張すると語尾が小さくなる癖。
心臓がバクバクと鳴る。
いや、まさか。
……でも、間違いない。
圭だ。
――五十嵐圭。
かつては高校時代の親友で、俺が――どうしても忘れられなかった相手。
再び画面を見ると、動画の圭は明らかに慣れていない様子で、カメラの前で自分の体を晒していく。
ついに、全裸になってベッドで自慰行為を始めた。
圭は自分のものに指を絡め、小さい喘ぎ声とともに上下に動かし始めた。
左手首にうっすら見えたのは――傷だった。
照明の加減で、一瞬見間違えたかと思った。けれど、もう一度目を凝らせば、そこに確かに筋のよう残る線がある。
真面目に仕事を続けているであろう圭が……なんでこんな動画を。
「嘘だろ……」
肩で荒い息を繰り返す圭を見て、俺はごくりと喉を鳴らした。
圭が手を止めて、小さなプラスチックの容器を取り出した。あれはローションだ。
パチンと容器の蓋を開き、掌に透明でとろりとした液体を垂らす。
⎯⎯ぁ……っ……はぁ……
吐息が零れるたび、喉がひりつく。
ぎこちなく手を動かす圭。演技じゃない。本当に戸惑ってる。
その不器用な仕草が妙にリアルで、余計に苦しくなる。
「……やば……」
気付けば、俺もズボンの中が熱くなっていた。
理性より先に、身体が反応していた。
ソファーに身を預け、動画の中の圭と同じ動作をなぞるように、手を動かす。
⎯⎯……っ、ん、ぁ……
圭の喘ぎと、自分の荒い息が重なっていく。
いつの間にか俺も限界で、圭が射精する瞬間、同時に達していた。
「……っ、……はぁ……」
床に落ちた白濁をぼんやり見つめる。
手の中に残る熱と罪悪感。冷静になるほど、胸の奥がざらつく。
頭の中で圭の声が離れない。
あの震えた「お願いします」の一言が、ずっと耳に残っていた。
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