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第13話 十年分の嘘と、本音
そして今日、ホテルのスイートルームで十年ぶりに見る、圭の姿。
声、仕草、全部が昔のままで。
……でも、何かが違う。
追い詰められたような、疲れた雰囲気。
目の下のクマに、痩せた頬。どこか諦めたような表情。
「……圭」
名前を呟いた瞬間、胸の奥が熱くなった。
喉が締めつけられるように苦しくて、思わずソファーの背にもたれる。
あの日から、ずっと忘れられなかった。
――教室での告白。
「冗談」と笑い飛ばした、あの瞬間。
圭の顔が真っ赤になって、困惑した表情で俺を見つめていた。
本当は、本気だったのに。
本当は、ずっと好きだったのに。
でも、あの場で本気だと言えば、圭がいじめの標的になる。
男が男を好きだなんて――高校のあの空気の中で、許されるはずがなかった。
だから俺は、道化を演じた。
「そんなわけねぇだろ」って笑いながら、自分の心をごまかした。
その後も、わざとベタベタして、周りに「ただのふざけた関係」だと思わせた。
圭の隣にいたかっただけなのに。本当は、もっと近づきたかったのに。
……でも、近づけば近づくほど、圭の表情が曇っていくのが分かった。
周囲の視線。ひそひそと交わされる噂。
「あの二人、まさか本当に……?」
そんな言葉が、圭を苦しめていた。だから、最後に俺は言った。
「お前のこと好きって言ったけど、やっぱりあれ嘘。俺、男は無理だし」
――あの時の圭の顔。
泣きそうに歪んだ唇。震える肩。
守るつもりで、傷つけた。最低だった。
そのまま、圭は俺を避けるようになった。
何度も夢に見た。
そして、そのたびに目が覚めたあと、どうしようもなく後悔した。
それから十年。
俺は大学を出て、就職して、起業して――金も地位も手に入れた。
でも、どれだけ手に入れても、圭のことだけは忘れられなかった。
――会いたい。
そう思いながらも、行動に移せなかった。
今さら何を言えばいいのか分からないまま、時間だけが過ぎていった。
……なのに、今。
こうして目の前に圭がいる。
あのサイトで、偶然見つけた動画。
震えた声で自分を晒していた圭。
「……圭、お前……」
呟いた声は掠れていた。
切なくて、悔しくて、どうしようもなく愛しい。
なんで、こんなことを。
金に困ってるのか?それとも、他に理由があるのか。
どちらにしても――放っておけない。
この十年間、ずっと後悔してた。
本気で想っていたのに、守るために嘘をついたこと。
そのせいで圭を一人にしたこと。
傷つけたまま、逃げてしまったこと。
圭は、怯えたような目で俺を見ている。
「俺を脅したところで、金なんかないから」
その言葉に、胸が痛む。
圭は俺を信用していない。
当たり前だ。一度、裏切ったんだから。
でも、もう一度、圭と――……今度は、絶対に逃さない。
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