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第15話 初めての夜、堕ちていく

思わず後ずさると、輝は眉を寄せた。 その表情は、あの頃のような嘲笑ではなく、どこか切なげで。それが余計に混乱させる。 「圭」 逃げようとした俺を、輝はあっさり捕まえた。 「離せって……」 「圭はそれなりに覚悟決めてきたんじゃないのかよ」 その通りなんだけど、状況は違うだろう。 「だって、俺とお前は……」 「金は払うよ。必要なんだろ?」 ……悔しい。 そんな言い方されたら……さすがに泣きそうだ。 「るさぃっ……」 目が潤み、涙が溢れてきた。 あのときも、今も。俺はこいつに振り回される。 なんで。なんで……。 「ごめん。圭」 謝られたら余計に虚しくなる。 輝に、俺の気持ちなんかわかるわけない。 「泣くなよ」 「泣いてねぇし……!」 「やっぱり……お前は変わんないな」 囁くように言って、輝は俺の頬に触れた。 手のひらが熱くて、触れられたところだけが焼けるみたいだ。 「やめろって言われても、止まれそうにない」 心臓がどきんと跳ね、顔が熱くなる。 輝の指先が顎や耳の後ろに触れるたび、身体が勝手に反応する。 「う……っ…………」 恥ずかしさで身体が熱くなるのに、自然と反応してしまう。 「ほら、窓の外見てみ。綺麗だろ」 言われるまま、窓際へ連れてこられる。 手をガラスに押し当てて外の夜景を見ると、光の海に吸い込まれそうで、思わず息を呑む。 「圭」 後ろから抱きしめられた。 輝の温もりに、心臓を押さえたくなるほどの熱を感じる。 「こうして俺と圭が抱き合ってても、こんな高層階の窓を覗く奴なんていないしな」 輝の唇が耳に触れる。思わず「んっ……」と声が漏れた。 慌てて口を噤むけれど、抱きしめる腕は力を緩まる気配もない。 耳の裏を舌で撫でられ、片手はシャツ越しに胸を弄られる。 「輝っ……」 「抵抗しないのは……少しでも、俺のこと……残ってるから?」 輝が小さく笑う。挑発でも自信でもない。 迷いと痛みが混じった、弱い笑いだった。 「違う。……そんなわけ、ないだろ」 即答したつもりだったのに、声が小さすぎて自分でも驚いた。 輝はそっと指先で髪を梳いた。 その動作があまりにも優しくて、思わず目を閉じる。 「……昔から、圭は素直じゃないもんな」 胸の奥から熱がじわりと湧き上がり、全身の力が抜けそうになる。 「ベッド行こうか」 その言葉に、頭の中が真っ白になりそうになる。 背後から抱きしめられている安心感と、身体の反応が混ざり合い、どうしても抗えなかった。 頬は熱くて息も荒く、心臓の音が耳に響く。 「圭、こっち向いて」 「……なに」 「逃げないでくれよ」 その言葉に、胸がドキリとする。 「もう逃げねぇよ……お前は客なんだから」 「……客か」 輝が少し笑った。 「まあ、最初はそれでいいよ」 「……どういう意味?」 「今に分かる」 そう言って体を離し、俺の顎に手を添えた。 「っ……」 そのまま、顔を近づけてくる。 唇が、触れる。柔らかい感触。 「ん……」 思わず声が漏れた。輝の舌が、俺の唇をなぞる。 「開けて」 「……っ」 抵抗する間もなく、舌が入ってくる。 深い、キス。息ができない。でも、不思議と嫌じゃなかった。 「んっ……ぷは……」 やっと離れた時、俺は息を整えるので精一杯だった。 顔が、熱い。 輝が俺の頬に触れる。 「可愛い。真っ赤」 「……言うな」 「でも、本当のことだろ?」 輝が、俺を抱き寄せる。 「待っ……」 「待たない」 そのまま、ベッドに押し倒された。

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