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第18話 変わる日常、優しさと愛の檻

side 圭 それから、俺の生活は一変した。 輝からの連絡は毎日来る。 “今日、空いてる?” “夕飯、一緒にどう?” “会いたい” 最初は無視しようと思った。 けれど、スマホを見るたびに、輝からのメッセージが気になる。既読をつけたら、返信しないわけにはいかない。 気づけば――指が勝手に返信を打っていた。 「……今日は仕事が遅いから、無理」 すぐに返信が来る。 “じゃあ、迎えに行く。何時に終わる?” 「いや、そこまでしなくても……」 “したい。お前に会いたいから” 会いたいと言われて、嬉しくない人間なんていない。 特に――相手が輝なら。 そんなやり取りが毎日続いた。 最初は「こんなの異常だ」と思っていた。 でも、次第に――輝からの連絡がないと、逆に不安になる自分がいた。 そしてある金曜日の夜。 定時を少し過ぎた頃、俺は会社を出た。 「……マジで来たのかよ」 高級車が一台、俺の職場の前に停まっていた。 都内でもそうそう見かけない高級外車。 その横で、颯爽と立つ輝。 まるで、ドラマのワンシーンみたいだった。 通りすがりの社員たちが、ひそひそと囁く。 「あれ、五十嵐さんの知り合い?」 「まさか彼氏?」 「え、すご! イケメン……」 「高級車だし、めっちゃ金持ちっぽい」 恥ずかしくて死にそうだった。 「……悪い、待たせた」 小さな声で言うと、輝が笑顔で振り返った。 「全然。お疲れ様」 輝が自然にドアを開けてくれる。 その仕草だけで、また周囲の視線が集まる。 「さ、乗って」 「……ありがとう」 急いで車に乗り込むと、周りの視線から解放された。 車内に入ると、高級車特有の革の匂いと微かな香水の香り。 「今日、何食べたい?」 「……別に、何でもいい」 「じゃあ、俺が決める」 車が動き出す。窓の外を眺めながら、俺は考えた。 こうやって輝が迎えに来てくれるし、ご飯を奢ってくれるし、優しくしてくれる。 これは何のつもりなのか――もう、よく分からなくなっていた。 そのまま連れて行かれたのは、高級レストラン。 シャンデリアの光。天井の高い店内、白いクロスのテーブル。 俺には、明らかに場違いだった。 「こんなところ……俺、浮いてるだろ」 「そんなことない。お前が一番似合う」 「……嘘つき」 「嘘じゃないよ」 輝が穏やかに笑う。そんな笑顔を見せられたら、何も言えなくなる。 「圭、好きなの頼んでいいからね」 「……でも」 「遠慮すんなって」 輝が俺の手に触れる。 「お前のためなら、いくらでも使う」 その言葉に、胸が苦しくなる。 嬉しいけど――同時に罪悪感もある。 俺は、輝の金で生きている。 「……じゃあ、これ」 適当に選んだコースメニュー。 それでも、きっと数万円するんだろう。 料理が運ばれてくると、想像以上に美味しかった。 一口食べるたびに、幸せな気持ちになる。 「美味しい?」 「……うん。めっちゃ美味い」 「よかった」 輝が嬉しそうに笑う。 俺が幸せそうにしてると、輝も幸せそうになる。 それが、不思議だった。 「圭、口に何かついてる」 「え? どこ?」 慌てて口元を拭おうとすると――。 「ここ」 輝が、俺の唇に触れた。親指で優しく拭う。 「……っ」 心臓が、跳ねる。 周りの客の視線なんて、もう気にならなくなっていた。 「可愛い」 「……やめろ」 顔が、熱い。 「やめない」 輝がいたずらっぽく笑った。その表情ひとつで、また心臓が跳ねる。 ――なんで、こいつはこんなにも自然に人を揺さぶるんだろう。 食事のあいだ中、ずっとそんな調子だった。 軽口を交わすたびに、さりげなく距離を詰めてくる。 デザートのチョコをスプーンで差し出された時なんて、視線を逸らすので精一杯だった。 気づけば、会話もリズムも、完全に輝のペース。 俺はただ流れに乗せられているだけだ。 食後、店を出たあとも、輝は何事もない顔で運転席に乗り込む。 夜風が心地いい――そんなふうに思ったのも束の間。 車が止まった先を見て、息を呑んだ。 気づけば、またあのホテルの前にいた。

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