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第20話 十年越しの愛
俺は、気づいていた。
――もう、輝なしでは生きられないことに。
毎朝、輝からのメッセージで一日が始まる。
仕事の合間も、無意識にスマホを確認している。
会えない日は、胸の奥がひどく寂しい。
そして、輝に抱きしめられた夜は、安心して眠れる。
いつの間にか、俺の生活の中心は輝になっていた。輝と過ごす時間が、心から待ち遠しい。
「……ダメだ、これ」
会社のトイレで鏡を見ながら、思わず呟く。
完全に、堕ちている。輝に、堕とされている。
けれど――その現実が、嫌ではなかった。
むしろ、もっと深く溺れたいと思っている。
「圭、大丈夫?」
トイレから出ると、同僚が声をかけてきた。
「なんかさ、最近幸せそうじゃない?」
「……え?」
「顔が違う。恋してるだろ?」
図星を突かれ、思わず目を逸らす。
「……してない」
「絶対してる。分かるよ」
同僚がからかうように笑う。
けれど、否定しながらも胸の奥が熱くなった。
今の俺は、確かに――幸せだった。
もう、自分を責めることもない。
借金もなく、誰かに怯えることもない。
輝がいるだけで、息がしやすくなる。
彼の手に触れた瞬間、世界が静かになる。
「……これが、愛……なのか」
小さく呟いてみる。
けれど、答えはまだ出せなかった。
*
その日の夜、輝が迎えに来てくれた。
「お疲れ様」
「……うん」
車に乗り込むと、輝が俺の手を握る。
「今日疲れてる?」
「まあ、ちょっと」
「なら、今日は早めに休もう」
「……ホテル、行かねぇの?」
その言葉が口から出た瞬間、恥ずかしくなった。
輝は少し驚いた顔をして――そして、嬉しそうに笑った。
「圭、俺に会いたかった?」
「……別に」
「嘘。顔、赤いよ」
「……っ」
「可愛い」
輝が、俺の頬にキスをする。
「じゃあ、ホテル行こうか」
「……うん」
ホテルの部屋。いつもならすぐベッドに行くのに、今日は輝がソファーに座った。
「圭、こっち来て」
促されるまま、隣に座る。
「……どうした?」
「ちょっと、話したいことがあって」
輝が、真剣な顔で俺を見た。
「高校の時、俺……本気でお前のことが好きだった」
鼓動が止まる。あの教室での出来事が、鮮明に蘇った。
胸の奥がずきん、と痛くなる。
「……は? なに、それ」
「冗談っつったのも、嘘だったってのも、全部お前を守りたかったから。でも、結果的に傷つけた」
その声に、胸の奥がぎゅっとなる。
「あの頃からずっと後悔してる」
「……輝、本気だったんだ」
「うん。ずっと、本気だった。だから、あの時のお前の泣きそうな顔、今でも忘れられない」
輝が、俺の手を握る。その手の温かさに、胸の奥がじんわりと熱くなる。
「もう逃げたりしない。お前を守るし、大事にする。本当に、圭だけを愛してる」
小さく頷くと、輝がゆっくりと顔を近づけて唇を重ねてきた。優しく、深く、確かな愛を伝えるキス。
「今も……好きだよ、圭」
視線が絡む。
心臓が痛いほどに跳ねた。
「……俺も」
「え?」
「俺も、好き」
輝の瞳が大きく見開かれたあと、ゆっくりと緩む。
そして、強く抱きしめられた。
「……やっと聞けた」
耳元で囁かれる声が優しくて、泣きそうになる。
「なあ、圭。俺と一緒に住まない?」
「……え?」
「お前の部屋より広いし、通勤も楽だし。何より――毎日、お前と一緒にいたい」
真っ直ぐな言葉に、息が詰まる。
「……まだ早いよ」
「俺は、もう待てない」
その瞳に映る自分が、愛おしそうで。
怖いほど、心が傾いていく。
「……輝」
「ん?」
「……好き」
もう一度、そう言葉にした。
輝が微笑み、額をそっと合わせてくる。
「俺もだよ。何度でも言う。圭が、好きだ」
胸の奥に、温かいものが広がっていった。
それは確かに――愛だった。
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