5 / 6
第5話 飼われる日々の始まり
アトリエで迎える二日目の朝から、刹那は六時の起床を命じられた。
メディカルチェックでの精神的疲労にぐっすり寝ていた刹那は、要に体をゆすられて起こされた。元々目覚めはよくないが、あまりにも無表情の要を見て叫ぶのを必死で止めたぐらいに驚き、一気に目が覚めた。
まずは朝風呂を指示され、浴槽に湯をためて入るところから始まった。
要からバスタブの使い方、シャンプー・ヘアーコンディションの使い方や体の洗い方、入浴後のスキンケアの指導があった。続いて朝食。アトリエにはシェフが常駐しており、食事は常に食べられる状態と聞いた。
白湯を飲み、ご飯と味噌汁、焼き魚に漬物という簡素な食事だった。これまで朝食を抜くことが多かった刹那だったが、昨日もほぼ口にしていなかったので、流し込むように食べ始めた。
「よく噛むように」
母親みたいなことを言う、と、向かいに座る要をチラッと見てゆっくり噛み始める。しかし、空腹を宥めるのが先で飲むように食べ終わった。
「おかわり」
「ありません」
「足りねぇよ」
要は刹那の太ももを鞭でビシリと叩き、「あなたは刹那です。以前のあなたとは違う人間です。言葉遣いを改めるように」と命令し、「歯磨きをしてくるように」とバスルームへと手のひらで指示された。
仕方なく立ち上がる刹那に要は一切の感情を入れずに指示していく。
スタンドカラーのノリの効いた白いシャツと黒の細身のスラックスに同じく黒のオックスフォードシューズを身につけた要。右側に短鞭が収納される黒皮のホルスは、要が持つ鞭に、刹那は反射的に「はい。わかりました」と返事をした。
食事の時間は、七時半、十三時、十九時と決められており、米飯、味噌汁に副菜がつく内容だった。飲み物は常温の水のみ。これまでファストフードを食べていた刹那にとって味付けだけでなく量も物足りないが、文句を言える立場ではなかった。
朝・昼食それぞれの後、刹那はアトリエの一室、四面がガラス張りの部屋に通され、首輪だけの姿にさせられた。
股間を隠そうとする両手を握り締めて止め、足の横に置く。その刹那の両足を開くよう、要は短鞭の先で内腿をつついた。
両手を頭の後ろで組み、要によって、自身の体を注視させられる。
脇も股間も明るみにして、乳首も股間も一眼でわかる姿勢。
恥ずかしくて鏡に焦点を合わさないようにしていたが、鏡越しに要の視線を感じ続けるのも疲れ、刹那はようやく自身の体を見た。
最初に感じたのは貧相な体。
痩せてはいるが、下腹部や腰回りにうっすらと肉が感じられる。足の形も悪く、ひざや肘が黒ずんでいる。
要は、刹那が自身の体をようやく見始めたことで、次の姿勢をとらせた。
刹那の膝の内側を鞭の先で軽くたたき、腿の上から押さえた。どうやら、そのままの姿勢で膝を曲げろと言うことらしい、と刹那は理解し、足先を外側に向け、徐々に腰をおろした。スクワットの姿勢で止められる。ピンク色をしたペニスはくったりと下を向き、刹那がうごくたびに少し遅れて揺れる。要が尻を鞭先で押すので腰だけ前に動かし、後ろへと戻す。鞭が離れても自身で前後運動を続けるも、ペニスと陰嚢がぶらぶらと揺れる様が恥ずかしく、腰を止めるとすかさず尻たぶに鞭が入った。痛みに慌てて動かし始める。もう足が限界だというところで前後運動を止められた。
次は背中を床につけ、膝を自ら抱いて隠部を曝け出す屈辱的なポーズをとらされた。男を迎え入れる姿勢で。これまで見たことのなかった自身の体と性行為を強く意識させられた。
鞭が自身の体をなぞっていく。胸筋や乳首の上を冷たい革が通り、股間の茂みやペニス、陰嚢、アヌスと辿っていく。その鞭先を自然と視線で追いかけさせられる。ペニスに熱がこもることもあるが、その都度ポーズを変えられる。床に陰嚢とペニスをすりつけるポーズのときには声がもれそうになるが、要の冷ややかな視線で飲み込んだ。
肘と膝をついて腰を高くあげさせられた。性行為のための姿勢だと自覚しながら、要を刹那が目を閉じることを許さなかった。鏡を通して、自身の肩のかたちや膝裏や足の裏まで見ることを強要させられ、そのポーズで緊張と弛緩を繰り返させられる。じっとりと汗が浮かんでくる。尿意や便意を催すと限界まで我慢させられ、トイレで排泄を促される。要は全く感情を見せず、ひたすら刹那に自分の体を直視させた。
刹那はその夜、入浴をする際にこれまでおざなりに洗っていた背中や首筋、足の裏などを念入りに洗った。
シャツだけの生活も三日目ともなると、羞恥心は消え、どんなポーズも意識せずに対応できるようになった。
木張りの床に汗で肌がすいつくことも不快に思わなくなった。むしろ体温より少しひくいだけの室温は心地よく、仰向けで両足を空中に広げて、股間が丸見えになるポーズも、足の筋が伸びて気持ちよさすら感じて指先まで伸ばした。
初日こそ、何をさせられているんだと反抗心、焦りなどの感情が露出していたが、二日目から従順に対応する刹那に要は次のステップに進むことにした。
昼食の時間に、要の報告を聴きながら玲は予想通りだとほくそ笑んだ。
「さすがだな、じゃじゃ馬が二日でおとなしくなった」
要を褒めると、要はうつむいて唇の端をあげた。
「フェーズ2に進もう」
要はひざまづき、玲の左手の甲に恭しく唇を落とした。
ともだちにシェアしよう!

