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スピンオフ 音原美弦の受難①
1 血迷った僕
音原美弦 、17歳は悩んでいた。
半年ほど前、一年の頃から仲良くしていた友人の新條秋親に恋人ができた。色々と紆余曲折あって結ばれた恋人達だったが、まあそれはいい。
そしてそれは、男同士の同性カップルだ。まあそれもいい。なにせ、音原美弦は腐男子だ。エロ本代わりに読んでいるとはいえ、そこそこ理解はあるつもりだし、なんなら二人の性生活(あまり身近な人物のそういうものは想像したくはないのだが)に関して手助けしてやったくらいだ。
音原が腐男子ということをふんわりとしか認識していなかった新條が、まるで音原が同性カップルの知識の宝庫であるかのように扱ってきたのでそういう結果になったのだが。
まあ、それもいい。エロネタではあるが、友人のために役立ったならそれはいいことだ。
だがしかし。
「‥‥僕、なんであの時ポチっちゃったんだろ‥」
音原の目の前には、どぎつい色の物が鎮座していた。
『男同士のセックスって準備がいるってマジ?』
と学校で堂々と訊いてきた新條の口を、恐ろしい勢いで押さえつつ廊下に引きずり出すという芸当をこなしながら、こいつの情緒をどうにかしてくれと音原は神に祈ったのを今でも鮮明に覚えている。
新條にはどうも、羞恥心というものがないらしい。わからないものを聞くのになぜ恥ずかしいのか?という顔をして色々と普通の音量で訊いてくる。
一年生の時にクラスの中で「ほら、あの、音ちゃんの読んでるあのビー‥」と新條が言った時にも蹴り殺してやろうかと思ったくらい頭が沸騰したものだ。
それでも、音原の趣味を知ってなお仲良く話してくれる貴重な友人ではあるし、そもそも新條という人間の愛すべき部分もよく見て知っているので、言うほど怒ってもいないのだが。
だから新條の頼みを聞き入れ、アナルセックスのための知識を二人で調べまくり、音原も今まで培った知識を総動員させつつアドバイスをしていったのだ。
その作業の中で、無論アナルの拡張作業についても調べ、道具やその他の購入なども二人で相談しながら行った。
途中でふと、「あれ、これって本来恋人とするべきものなんじゃ‥?」とは思ったが、新條は特に疑問も抱いていなかったようだったのでまあいいかと流してしまった。
ずいぶん経ってから新條の恋人である笹井に、「‥俺にも相談してほしかった‥」という謎の恨み&愚痴を聞かされたのだが、それはもう当事者間で解決してほしい。
そんな事より、これだ。
新條と色々なサイトを見まくった結果、好奇心に勝てずついポチってしまったこの、ブツ。
ショッキングピンクの、アナルバイブ。
好奇心が勝ってしまった‥ついでにローションとコンドームまで買ってしまった‥いや、はっきり言おう、「やってみたかったのだ」と。
エロ本代わりにBL本を読みだしたのは中学生からだったが、なぜだか普通のエロ本より昂奮した。あれ?僕ゲイなのかな?と一瞬思ったが、実際に見て性的昂奮をおぼえるのは女子の方ではあった。同じクラスの男子生徒を見てもエロいとか抜けるとかは思ったことがなかった。
だがじわじわと思っていたものは、どんどん心の中で形になっていっていた。
え、アナルって気持ちいいの?前立腺て、マジで男でも潮吹くの?
そういう疑念、というか好奇心。
とはいえ、まだまだ純真な中学生の時期はそれを試してみようなんて気持ちにまではならなかったのだ。
ところが思いもかけない方向からリアルBLが生まれてしまって、何の因果かその過程につき合わされる羽目になり。
好奇心と疑念の結晶が今、音原の前に鎮座しているのだった。
話は変わるが、今アダルトグッズとともに音原が座っているのは音原家の防音ルームである。
なぜ、一般家庭の音原家にそんなものがあるのか。
それは音原家が一般家庭ではないからだった。苗字に合わせたわけでもあるまいが、音原家の面々は音楽で生きていっているものが多いのだ。
父である行彦はテノール歌手。
母である光美はピアニスト。
姉の美楽 はバイオリニスト。
しかも皆それぞれソロで世界を渡り歩くほどの実力と人気の持ち主だ。
音楽の才能は遺伝に寄与するところも大きいと聞くが、こんな音楽一家の中にあって唯一、美弦は、
音痴だった。
しかも壊滅的に音痴だった。
音楽ではどう頑張っても2しかとったことはない。カラオケというのは美弦にとって地獄の入り口でしかなかった。小学校のクラス対抗の合唱大会では、あまりの音痴っぷりに周りにドン引かれ、自主的に口パクをするにとどめておいた。
音原美弦の音痴っぷりはともかく、音原家はこういう音楽一家なので防音室が二部屋もあるのだ。
普段、演奏旅行で家族が留守がちなため、昔から通ってくれているハウスキーパーがいて週に三日は来てくれる。だが、防音室にだけは入らないようになっていて、ここの手入れや掃除は音原美弦の役割だった。
つまり、この防音室に居る限り誰も邪魔はしてこないし外に音も洩れないのだ。
だからこそ、この部屋にこれらの物品を持ち込んで悩んでいるのだったが。
‥‥‥実は腸内洗浄は済ましてある。
新條とともに色々な情報を探った結果、意外に滞りなくできたのだ。
うむむむ、と悩んだ挙句。
音原は、コンドームのパッケージを取って封を切り、おもむろに一つ取り出した。薄いゴム製の製品をしばしじっと眺め‥のろのろとアナルバイブにかぶせた。
ローションのボトルキャップを開けてから、自分の指にもコンドームをかぶせてそこに垂らしていく。ゴム越しでも少しヒヤッとする感触があった。
あっ、服脱いでからにすればよかった。
音原は後悔しながらもすでにコンドームをかぶせた右手を使わないようにして、ぎこちなく左手だけでズボンと下着を取り去った。
膝を立てて座ったまま、そろそろとゴムをかぶせた指で、自分のアナル周りを撫でてみる。
ぬるぬるとしたローションの滑りで、アナル周りを撫でさするとぞわぞわとした感触があった。
「は‥‥」
悪くない。
何度かくるくるとアナル周りを撫でていけば、じりじりとした緩い快感が広がってくるのがわかる。気持ちよくなってきて、ぐっとアナルに指を沈めてみる。
くぷ、と指が埋まる。
「う、はぁ‥」
ぞわぞわ。
まだ入り口だけにしか入っていないのに、何とも言えない感覚が音原の下半身に広がる。
(やばい僕こっち の才能ある‥?)
遠くにちりちりと留まっているような快感を引き寄せたくなって、音原はずぶりと指を中に押し込んだ。
「んあ‥!」
(あ、ああ、なんか‥いい。かも)
ゆっくりと指をじゅぶりと埋めていく。ぎちぎちとした後孔は狭かったが、ゆっくりと挿し込んでいけばゆびは沈んでいった。
「あ‥」
ふうふうと息を吐きながら下半身を見る。
後孔に伸ばした右腕の横で、音原の陰茎がゆるゆると勃ち上がり鈴口から露を零していた。
「は‥エロ‥」
これまでに見た漫画のような光景に、一瞬頭がくらくらとしてそのままぐい、と指を動かした。アナルの中側をぐるりとかき回す形になって、それが音原に刺激となって襲ってきた。
「あ、はぁ‥」
(やばいやばいやばい、イイ、ああ‥)
じわじわとせり上がって来る快感に、音原はぐちゅぐちゅと指を突っ込んでかき回した。前立腺には当たっていなくとも、柔い粘膜をこじられていることにどうしようもない快楽を感じる。
(僕‥やっぱりこっち の才能、バリバリにあるのかも‥どうしよ、こんなの覚えちゃったら女子とセックスできなくなりそ‥)
だが快楽を追い始めた音原は、もう自分の指を止めることができない。はあはあと荒い息を吐きながら、突っ込んでいた指をぐちゅりと抜いてコンドームの中に二本指を入れた。そしてまたローションを足す。
揃えた二本の指は、意外にぐいぐい押せばするりとアナルの中に入っていった。
「あはぁぁ‥」
きもちいい。
音原はひとしきりアナルの入り口の浅いところで、二本の指をぐちゅぐちゅ掻き回して粘膜を刺激していたが、思い切ってもう少し指を奥に進めてみた。かなり狭い中をぐぐっと押し込めば、強烈な圧迫感があった。しかし、右手全体を捻るようにして回せば粘膜への刺激となって気持ちよさもぞわぞわ上がってくる。
時折そうやって自分に快楽を与えつつ、腹側に揃えた指をくっくっとまげて前立腺を探してみる。だが、なかなか見つけられない。
それでも、二本のゆびでアナルをかき回しているその刺激だけで十分快感を得られた音原は、その快楽にどんどん押し負けてとうとうぐったりと仰向けに横になった。少し背中を曲げて膝を立て、腰を持ち上げるようにしてアナルをぐちゅぐちゅとかき回す。
音原の陰茎はすっかり勃起してガチガチになっていた。左手でその陰茎を握って緩く扱いていく。
アナルと陰茎両方を弄っていると快楽が相乗効果でどんどん高められ、音原は嬌声を隠せなくなってきていた。
「ああ、あん、あん、いいぃ、きもち、い、よぉぉ」
音原は不自然に曲げた身体のまま、両手を使って後孔をかき回し陰茎を擦り上げた。
「あ、あ、あ、イク、イクッ」
びくっびくっと身体を痙攣させながら絶頂を迎える目の奥がちかちかと白く始めたような気がした。びゅくっびゅくっと陰茎の先から精液が迸った。
はあはあと息を弾ませながら、音原はごろりと横向きになって両手を股間から離した。右手に嵌めたゴムはローションに塗れていて淫靡なことこの上ない。
ぐったりとした疲労が全身を襲うが、それ以上にふわふわとした快感がまだ身体の感覚を支配していてたまらなく気持ちよかった。
(‥マジで、やばい、はまる、これははまる‥)
右手のゴムをのろのろと外しながら目の前に転がっているアナルバイブを見つめる。まだ道具も使ってないのに、こんなに感じてどうするんだよ僕‥
そのまま深い疲労のせいもあって、音原は目をつぶったまま深い眠りに引きずり込まれていった。
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