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第24話 おねがい/おねだり(*)(新版)
深く結びつくキスを重ねながら、オデルはレナードの背中を引き寄せた。
「は、ぁ……っ」
熱を注がれるようなレナードの愛撫に、蕩けはじめる。息が上がるに任せて、ふと伏せていた瞼を上げると、思いつめたような表情のレナードと視線が交差した。
「オデル……」
求める囁きに応えようと、オデルは頤を持ち上げた。少し広がった視界に、レナードの右肩がじわりとナイトウェアを朱に染めてゆく。
「ぁ、傷、が……っ」
「これしき」
平気です、と喉奥で呟いたレナードは、自重でオデルを押し潰さないよう、覆い被さり、両腕で身体を支えた。
「だめ……っです」
「欲しいと言ったのはきみです」
「でも、」
「止まれと言われても、もう無理です……オデル」
愛しげに決めたレナードから腕を離し、オデルはどこか掴まっても平気な場所を探ったが、どこに触れても白かった衣類が血の色を滲ませる。
「だめ……っ、レナード……ッ」
「逃げても無駄です」
「ぁ……!」
オデルが一旦、うつ伏せに身体を返し、離れようとするのを、レナードが拘束するように抱きしめた。布越しに、少し高いレナードの体温に包まれる。理性を振り絞ったオデルがシーツを掴み逃げようとすると、尾てい骨の辺りにレナードの硬いものが当てられた。
「っ、待っ……、ぁ……ぁっ」
「逃げても無駄だと言ったでしょう? それとも……怖いですか?」
誇示し、ねだるかのようにぐりっと押し付けられ、オデルはレナードの息に震えた。直でないとはいえ、屹立を何度も押し付けられて、理性を凌駕する欲が臓腑の奥を滲ませる。
「ん、んんっ……っぁ」
膝が折れ、両腕の力が抜け、腰を上げた体勢のまま、オデルは葛藤した。どれだけ待ち焦がれていても、レナードの傷を拡げたくない。一方で、一度も明け渡したことのない奥が疼き、潤み、アルファと番う準備ができつつあった。このままだと、うっとり囁くレナードに、それを知られてしまいそうだった。
「きみの中は、どんなでしょうか……? 狭いですか? 熱いですか? アルファに征服されるのは、どんな気分がするものでしょうか……?」
甘えるように、布越しに蕾の位置を特定されると、これが中に挿れられたらどうなるかを、想像させられる。
「っぁ、ぁー……っ」
崩折れたオデルはシーツに片頬を付け、唾液が染み出すのもかまわずに声を上げた。理性ゆえの拒絶に、期待と欲望が競り勝ち、挿入の準備が整いつつあるのを、半分本能で理解する。
「可愛いです、オデル」
「だ、め……っ、そこ、っぁ、ぁぁっ」
「これ、ですか? それとも、こうする方が好き? どんな風に、挿れてあげましょうか?」
レナードの腰つきが次第に卑猥さを帯び、指先が白くなるほど痺れたオデルは、シーツを握り締める。
「きみが「欲しい」と言いました。私も同じ、気持ちです」
「待っ、ぁ……!」
オデルを抱いていたレナードの片腕が、腹を撫で、するりと降下する。張っているスラックスの前に触れられ、布地越しに勃起してしまっているのを悟られてしまう。頂点を手のひらで緩く揉みしだかれ、辛うじて力を込めていた腕が最後の踏ん張りを諦め、突っ伏す。そのままオデルはレナードへ、臀部を押し付けるような姿勢になった。
「ぁ……ぁぁ……ぁ、ぁぁっ……ま、待っ……っ」
背をしならせたまま、オデルは両腕でシーツを乱し喘いだ。擬似行為に焦らされて、次第に理性が働かなくなってゆく。
「待てないと、伝えました。それとも、もう、心変わりをしましたか? こんなにはしたなくお尻を揺らして……」
「は……、っん……っ」
意地悪を言われるたびに、頬が火照る。レナードの手により、スラックスの前が解かれ、下着の中に手が滑り込む。下腹をぐっと押され、腰を突き出す姿勢を明確に取らされた瞬間、擦り付けられているレナードを喰らいたい、という明確な欲望をオデルは自覚する。
「ぁ、ぁ、レナー……ッ、願……っ、ぃぁ……っ!」
右手が喉仏の辺りを這い、左肩を軽く甘噛みされる。レナードの手のひらは熱く、先端を握られると、オデルは透明な蜜を溢れさせた。
「口では私を拒むくせに、きみは、こんな状態ですが……?」
「んっ、ぁ……!」
鈴口を優しく指の腹で擦られる。
「きみは私のことを、よくわかっていませんね? それとも、きみに嗜虐的な劣情を抱く私が、おかしいのでしょうか?」
宥めるように優しげだが、何度も繰り返される愛撫のせいで、先端に刻まれた淵が朱くなる頃には、しきりに卑猥な水音が立ちはじめていた。愉楽の深さに慄き、オデルの膝が開くと、レナードは自分の膝をこじ入れ、閉じられないようにした。
「私の前で、こんなに濡らして……。ここを弄られるのは、気持ちいいですか? 少し、手加減しましょうか? それとも、酷くされる方が、いいですか……?」
限界を超えかけたオデルに、レナードは欲情の混じった声音で囁きかける。短く切り揃えられた、円く節のある指先に敏感な場所を暴かれる。泉のように止まらない先走りは、途切れることがない。オデルが首を振るたびに、涙を吸い込んだシーツが、所々、半透明になるが、ひとつだけ確かなことが胸の中にあった。
「す、き……っ、です、好き……っ、です、レナード……ッ」
「オデル……?」
もうとっくに限界を超えてしまっている。逃げ出すこともできず、擦られ続けたオデルの鈴口も、布越しに擬似行為を繰り返される後孔も、潤み切ってアルファを待つばかりだ。酷くされて、驚いたけれど、嫌じゃない。怖いのは予測ができないからで、奪われれることも、壊されることも、覚悟できていた。
「好き……です、っから……、ぼく、は、レナードと、あなたと……番いたい、です……っ」
嗚咽を堪えながら、オデルは零した。
「っきみは……っ」
喉奥から絞り出すように呻いたレナードは、オデルのスラックスを膝まで下ろし、自身の前を解くと、屹立を取り出した。オデルの左手を後ろへ導き、それを握らせる。
「逃がしません……逃げられたら、壊してしまう」
「んっ、ぁ……!」
「動かして。……そう、握ったまま、そうです、上手です、オデル」
「は……ぁ、は……っ」
気持ちを伝えるだけでは届かない場所があると、身体を重ねようとしてみて、初めてオデルは気づく。レナードの淫猥にも取れる要求の裏にある飢餓を悟り、オデルは自分のそれと重ねずにいられない。
「ぁ……か、硬い……っ」
レナードの指に臀部を分けられ、露わになった蕾を捏ねられる。言葉にしただけでは届かない奥に、互いを打ち込まなければ得られないものがあることを、オデルは薄ぼんやりと知る。
「熱、すご、ぃ……っぼく、こんなの、知らな……っ」
「黙って、オデル」
性急さを最早、隠さなくなたレナードが、背後から命じ、蕾を乱した。
「きみは私を煽りすぎる」
「ぁん……っ!」
ぬちりと挿入された指が、濡れた愛液に滑り、埋められてゆく初めての感覚。目の前に星のような白い光が散り、オデルの視界から弾けて消えてゆくのは、衝撃だった。
「朝露に濡れた蕾のようです……少し、色が濃くなってきました」
内壁を探られながら、違和感に歯を食いしばっているオデルの背中へ、レナードが言葉を投げる。壁を半周、撫でた指が一旦、出てゆくと、無意識のうちにそれを締め付けるようにしてしまう。すぐに挿入された代わりの指が、まだ浅い、腹側をしつこく押し捏ねてゆく違和感に戸惑いながら、オデルはレナードの熱い昂りを左手で握り、右手でシーツをクシャクシャにした。
やがて腹側の、壁の薄い場所を探られた時、ぴりっと何かが引っかかるような、えもいわれぬ奇妙な感覚がした。
「っ」
知らず識らず、頤が上がったのをレナードが拾い上げるように尋ねる。
「ここ……?」
「な、に……? っ……!」
再び同じ場所を掻かれ、無意識のうちに後孔がきゅっと縮んだ。二度目はなぜか、もっと明確で鮮やかだった。再び繰り返されると、それが快楽だということに、オデルもさすがに気づいた。
「んっ……! ん、んぁ、っんん……っ!」
自覚した途端に、背筋をぞくぞくと何かが這い上り、頭頂まで駆け抜けてゆく。愉楽のあまり震えるが、途端に左手の中でレナードが硬度を増したのがわかった。
「な、ん……っ、硬、っ……ぁ、ぁあ!」
体積を増したレナードの愛撫が濃くなればなるほど、オデルは指が増えたことにも気付かず、喘ぎながら無意識にそれを締め付けた。やがてオデルの左手が耐え切れずにシーツに投げ出され、身体をくねらせて乱れはじめた頃、やっとレナードは虐めるのをやめた。
「きれいに、咲きましたね……?」
「ぁ……見ない、で……っ」
「どうして?」
「も、ゃ……っ、です……っ、ひくっ、ぅ……っ、きも、ちぃ、すぎ、て……っ」
言葉が解体されてゆくほど、感じてしまっていた。ひとりで熱を処理する時も、中にまでは触れなかった。上半身はまだ上着を着たままで、タイすら解いておらず、対して半裸に剥かれた下半身は、奥が疼いてわけがわからない快楽にぐずぐずになっている。
「泣かないで……オデル。私も、同じ気持ちです」
「ぅ……っ」
嘘だと撥ね付けてやりたくなるほど、もうぐしゃぐしゃだった。オデルだけが乱れているのが、何だかとても寂しく、やり切れない。
「つが、番い、たい、です……っ」
精一杯の哀訴だった。
「あなたと、レナード、と……ひとつに、……っ」
「っ……」
刹那、後蕾に熱いものが充てがわれたかと思うと、みり、と襞を乱し、潰すようにしてレナードが挿入ってきたのがわかった。
「ぁ……!」
「オデル……ッ、きみ、が……私、は……っ」
好きです——と背後でレナードが、壊れかけたような声を放つ。どうして愛を伝えるために、こんなに苦しい行為をするのだろう。回答を得る代わりに、オデルは背後から抱きしめられたレナードに、体内に熱を穿たれ、揺さぶられる。
「傷が……っ」
「平気だと言いました」
「レナー……ッ」
オデルの白い指がシーツを握りしめ、震える。その指にレナードの手が重なり、些か性急な挿入は、しかしオメガとしての準備が整っていたためか、オデルの肉体に損傷を与えることはなかった。
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