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第25話 甘い罰(*)(新版)
熱い——ただそれだけの、だが、抗し切れない質量が、オデルの肉体に穿たれる。
揺さぶられるたびに、快楽が蕩け出し、オデルは掠れ声を抑えることができない。卑猥な水音がぱちゅん、と一際目立ち、レナードが停止したのも束の間、やがてオデルの感じる場所を抉るような抽挿がはじまった。
「ぁぅ、ぁあ、あぁっ、強、んっ、ぁっ……!」
ごりごりと削られ、容赦なく突き入れられ、壁を薙ぐように引き出され、また挿れられて、擦られて、快楽が更新されてゆくのを知らないままだった頃には、もう戻れない。うなじにはレナードの荒い息がかかり、背後から両手を握られているせいで、ぐるりと腰を回されるたびに身体をくねらせることしかできない。
「ぁ……ん、んぁ、んっ……ぁ!」
甘いとか、切ないとか、そういうきれいなだけでは済まない情欲が、オデルとレナードを獣にしてゆこうとしていた。容赦のない激しさが嬉しいだとか、どうかしていると思われるかもしれない。雑念が、一瞬、脳裏を過ぎったとしても、オデルへ懸命になることだけに全霊を傾けているレナードに、奪われることが嬉しかった。
「きみの、中は……っ……!」
「ん、ぁっん!」
「熱くて、蕩けてしまいそうです……っ、オデル……ッ!」
「あ、ぁぁー……っ!」
レナードの手から一時的に自由になり、色を濃くしたオデルの先端は、壊れた蛇口のようにトロトロと白濁混じりの体液を零れさせ続けた。尽きることのない精液混じりの愛液は、そのまま悦楽の深さに比例した。
「ぁ……! っも、でき、な……ぃぅっ、ぅぅ……っ!」
オデルは、苦痛に極めて近い快楽が存在することを初めて知った。いつまでも餓えが止まらずに、揺さぶられ続けた挙句、自らレナードを喰みにすらゆく。
「ん、ぅー……っ!」
ひと塊りに誘われるまま悦楽を追い続けることしかできない。
しかし、もう少しで達しようとした直前、レナードが揺さぶる動きを止めた。
「ぐ……く……っ」
「レ、ナード……?」
背後の気配がわずかに変わったのを認識し、オデルがふと頤を上げた。同時に、中にあるレナードの体積が増し、異変に身を捩り、背後を見た。
「ど、う……っ?」
オデルに覆い被さったレナードの手が、震えはじめる。振り返ると、レナードの虹彩が縦長になり、黄金色に変化していた。獲物へ狙い澄ました獣のそれに瞠目すると、オデルの視界から怯えるようにレナードは顔を背けようとした。
「う、く……っ! 見ないで、ください……っ、オデル……ッ」
レナードの声が、恥じらいを孕み歪んでいだ。犬歯がぐぐっと育ち、オデルの半分ほど髪に隠れたうなじを目前に、荒い息のまま涎を垂らしている。鋭く変化しはじめたレナードは、怯えたように両腕を顔の前で重ね、自身の容貌をオデルから隠そうとした。
「レナー……」
「驚かせて……しまいました……が、アルファの発情の兆候、です……っ。すみませ……」
(きれい、だ)
ふとオデルが唇をほどこうとすると、レナードは身を引こうとして身体を強張らせた。
「どうして隠すのですか? どうして……レナード?」
「それは……」
「あなたの変化を、ぼくは知りたい」
「しかし……怖く、は」
子どものように慄き、恥じらう。視界を遮るレナードの片腕をオデルは握り、ぐいと横に引いた。結び合ったままオデルが横向きに倒れ、オデルを庇うようにレナードが片腕を付く。
「ぼくの目も……こうなっていますか?」
「オデル……」
「きれいで、ひとつになりたくて、欠落している……」
「っそう、です……」
「三日月、みたいです」
「すみません……っ、私は……っ」
すぐ鼻先にいるレナードに、オデルは陶然となり、笑ってみせた。両腕でレナードの頬を包み、どこか胸にくる感情のまま、言う。
「ぼくは、あなたのものです、レナード……怯える必要も、怖がる必要も、ありません。ぼくは、あなたと番いたい。気持ちは変わりません。例えあなたが、どれだけ変わっても」
なんてきれいなんだろう、とオデルはあらためて思う。同時に中にあるレナードのものが、さらに大きくなった。オデルはそのままレナードを引き寄せ、頬に触れるだけのキスをする。
「オデル、何を……っ」
「オメガが皆、こうではないでしょう……? きっと、あなたの想像するのとは、ぼくは違っているかもしれません。胸も、ないし、痩せていて、柔らかいところもないし、魅力もあまり、ない、です……。でも、ぼくは、あなたに壊されたい。食べられたい。奪われて、咀嚼されて、何かが欠けたとしても、あなたの愛なら、ぼくは拒みません。それに」
レナードの眸に少し光が戻る。揺れる視線がオデルを捉えた。
「レナードの前なら、ぼくはどうなってもかまわないです」
「っそういう、ことを……っ」
「軽々しく言っているかもしれませんが、本心です。ください、レナード。きて、噛んでください……っ」
「っ……」
苛立たしさを募らせるレナードに、オデルはどこか安堵していた。完全無欠の伴侶の横に並び立てる資格が、果たしてオメガである自分にあるのか、ずっと疑問に思ってきた。でも違うのだ。
「こうなることを、ずっと恐れてきました……なのに、きみは」
「ぼくは……ずっと待っていました」
「震えていますよ、オデル……」
「レナードだって」
そう言い合い、額と鼻の頭をくっつけ合って、オデルは、今度はレナードとともに笑みを零した。
「……私の運命なら、きみに捧げたも同然です。でも、きみの人生を曲げてしまうかもしれない……正直、躊躇います」
誠実であろうとするなら、きっと試練は訪れ続けるだろう。オデルもそれに、同意する。
「ぼくも怖いです……、あなたに、飽きられることが」
目が合って、心がときめく。でも、今はともかく、いつかそうならない時がくるかもしれない。
「だから、ぼくは証拠が欲しい。あなたが一時でも、ぼくを愛した証があれば……生きていけると思うから。……狡い考えですが」
「オデル……」
「ぼくたちは合わせ鏡のように、互いのことも、自分のことも、信頼しきないままでいますよね。ぼくらは……どちらも臆病風に吹かれている。そう思いませんか?」
「それは……そう、かもしれません……が」
レナードの怒張したものが中で脈打っていた。オメガのフェロモンの作用でアルファがこんな風になるとは知らなかったが、その箍の外れ方が、オデルはいい、と思ってしまった。
「でも、ぼくはレナードが好きです。アルファなのに、完璧じゃないあなたが。葛藤を明かしてくれるあなたが……好き、なんです」
待っていても、希望はこない。
選ばなければ、未来はこない。
レナードがオデルを選んでくれたように、今度はふたりで希望を掴むために、未来を選びたいとオデルは思った。
「あなたを最初に選んだ時、ぼくは、レナード以外のすべてを捨てようとしました。あなたが、ぼくに考える余地と猶予をくれた時、どれほど驚いたか……自由をもらえて、どれほど救われたか……。今度はぼくの番です」
「オデル……、でも、きみに負担が」
「あなたの背負っているものを、ぼくにも少しだけ、支えさせてください。足りないかもしれませんが、一緒に、生きたいから……だから」
「っ……」
レナードが切なげに眉を寄せ、震えている。ふたりとも汗だくで、レナードの眦からぱたりと一粒、水滴が垂れた。
「レナード。ぼくを、噛んで」
未来に何が起きるかは、誰にもわからない。
でも今、不確定な未来をも、愛そうと決める。
「オデル……ッ」
「うご、い、て……っ、平気、だから……っ」
葛藤に火照った頬を晒し、レナードはオデルの唇へ触れるだけのくちづけを落とした。そのまま、抽挿せずに腰を緩く回す。ぐり、と中の感じる場所に、レナードの先端が当たり、オデルは陶然としてしまう。
「っ……ん、ぁ、すき……っ」
「つらくは、ない?」
「んっ……へい、きで、す……っ」
「私は、きみを……少し見くびっていたのかもしれません、オデル……」
「ぁ、んん、それ、すき……っ、レナー……ッ、ぁぅ、っ、ぁ、んっ、んぁっ」
愛情の交歓がこうだとは、まったく想像もしなかった。苦痛に近いほど、快楽が深くなり、もっと欲しくなる。結合部を捏ねるようにゆっくり運動を再開したレナードに、オデルは求めるように身体をくねらせ、付いてゆこうとした。レナードに深く唇を結ばれ、また深部を抉られると、嗚咽めいたものが出てしまう。
それでも、もうレナードは動きを止めなかった。
互いに向き合い、視線を合わせたまま高みへゆく。足りない、という表情と、過剰すぎる欲望が、オデルをレナードとひとつにした。そのまま高く、さらに高く、やがて落ちることが予測できるまでゆっくり上り詰め、ふと声が漏れる。
「あ、っ」
予兆に違いないが、レナードも今度は止まらない。レナードの切っ先から熱い飛沫が漏れはじめる。一際、太くなった根元部分に止められているせいで、射精がはじまっても熱く濡れた感触に惑うだけで、さらに深く抉られる。
「っん、レナー……ッ、あ、っぁ! ど、どう、しよ……っ、い、いぃぃ……っ、止まらな、いで……っ、もっと、欲し……っぃ、ぁん……っ!」
「無茶を……しますね、ッオデル……!」
「ぁ、ああぁっ、熱、あっ! ま、また……っ、それ、そ、っ……ぅ、ぁあっ……!」
ぐりゅっ、と奥を突かれると、身体がばらばらに壊れてしまいそうな悦楽が訪れた。高い場所から突き落とされ、着地するかもわからないまま落ち続けるが、たったひとつだけ、違うことがある。レナードが、ともにいることだ。
「ぁ、あー……っ! あぁー……っ!」
無意識にレナードに合わせ、腰を振り立てながら、レナードにオデルは蛇口を握られる。
「ひぅ!」
「壊れて、止まらない、かと……っ」
「ぁあぁっ! だっ……め、駄目、それ、っぃ、ぁあぁっ……!」
堰き止められて、さらに乱れる。どうにか手を外そうと、無意識のうちに、狂いがちにレナードの手の甲を引っ掻いていた。外れないとわかると、ずり上がり逃げようとする、その首筋を狙い澄ましたように、レナードがそっと甘噛みする。
「あ……っ!」
「好きです、オデル……ッ」
そう囁かれた。その直後に、ぶちりと皮膚を裂く音がして、首筋を噛まれたことを知る。
「あ……ん……っ!」
「はぁ……っ、これが、きみの、血……、あまい……っ」
「あっ、ぁあっ、あん、あっ、あ、あぁっ、あっ、あーっ、あっ、あぁーっ!」
皮膚に埋めた犬歯を引き抜くと、できたばかりの歯型をレナードが幾度も舌で確かめるように舐めながら、腰を振り立ててくる。打ち付けられるたびに鮮やかな快楽が、オデルを何度もさらってゆく。いつの間にか、レナードをかき抱いていた。栓をされたように抜けないレナードの怒張が、肚の奥まで何度も迸りを撒き、ぐりぐりとうねるように壁に擦り付けてゆく。
そのたびに深い愉楽に陥りながら、オデルは腰を揺らし、レナードについてゆこうとする。
「ひぁ、っ、ぁん!」
「オデル……私の、愛しい人……っ」
オデルもまた、壊れたようにレナードの手の中で射精を繰り返しながら、強く抱きしめられる。
ずきずきと鈍い痛みが誘うように快楽を連れてくる。その感覚に、オデルはこの交わりで、オメガとして自分が再構成されたのを悟った。息もできないほどの情愛の中、鼓膜にレナードの囁きが吹き込まれる。
「愛しています……っ、オデル……ッ」
「あ、ぼく、も……っ」
甘い幸福に攫われた瞬間、オデルは波の頂に乗ったことを悟った。
同時に、レナードの求愛に応えたつもりだったが、やがて何の前触れもなく、ぶつりとオデルの記憶は途切れた。
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