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二十一話 嫉妬

 気が早いかもしたが、俺にとって友人というのが、嬉しいものだったらしい。小井手との飲み会は、早々に日取りが決まった。 「わあ。思ったよりずっと良い店だ。ジャケットの方が良かった?」 「気張らなくても大丈夫だよ。ドレスコードとかはないから」  お洒落して来てくれるお客さんが多いが、一応『セレンディピア』はカジュアルイタリアンだ。早い時間なら小さい子供連れもいるし、会社帰りのラフな格好の人も居る。勿論、ジーンズやミュールでも問題ない。  店内に入ると、すぐに顔なじみのバイトスタッフが案内してくれる。知り合いに案内されるのは、なんとなく気恥ずかしい。予約していた場所は、カウンターの端だ。テーブル席の方が良いかとも思ったが、この場所だと斎藤さんとも会話が出来る。  席に着くと、すぐにワインリストを持って斎藤さんがやって来た。挨拶をして、軽く小井手を紹介する。 「ハウスワインも美味しいって評判なんだけど、飲んだことなかったんだ」 「じゃあ、次からはお薦めする時に自信持てるじゃん」 「だね。まずは白かな」 「俺も白にしよう。良いワイン置いてるなあ。でもお手軽なものも多い。オーナーがワイン好き?」 「どうだろう。今度聞いてみようかな」  そう答えながら、そういえば出資者である雨下がワイン好きなので、雨下の趣味もあるのかもしれないと思い出す。  雨下の家にはウイスキーやスコッチ、ウォッカが置かれた棚の他、ワインセラーなどもあり、ちょっとしたバーカウンターがある。酒の経験値が低い俺でも、雨下の家の酒が美味いのは分かる。まあ、独特な酒も多いが。  しばらくすると、すぐに前菜とワインが運ばれてきた。前菜にはいつもの見慣れた盛り合わせの他に、見覚えのない皿が余計に増えていた。カキを炙ってガーリックのソースをかけたもののようだ。匂いだけで美味しい。 「これ店長からサービスだって」 「わ。ありがとうございます。後でお礼言っておきます」 「わー。嬉しい。めっちゃ美味しそうだな、神足」  どうやら斎藤さんがサービスしてくれたらしい。ぷっくりとした、良いカキだ。  美味い料理と楽しい会話。当然、酒が進む。飲みなれないのもあって、早々に顔が熱くなってくる。 「ふは、熱い」 「はは。神足、真っ赤。水もらおうか?」 「いや、まだ大丈夫。ちょっとふわふわするけど」 「なら良いけど。無理すんなよ? そういえば、今日のジャケット、めっちゃ良いじゃんPas de Lune? また良いもん持って」 「だから、もらい物。ホラ、バイトしてるって言ったろ。家政婦的な……」  襟のタグを確認して、小井手が目を丸くする。すでに雨下からのプレゼントの価格はチェックしていないが、やはりお高いのだろう。  雨下に脚を売っていることは、当然言っていない。家政婦のバイトをしていると伝えてある。  まじまじと俺のジャケットを見る顔が近い。小井手も酔っているらしく、顔が赤かった。 「―――縁くん?」  背後から、聞き覚えのある声がした。俺が振り返るのと同時に、つられて小井手も振り返る。  雨下は少し驚いた顔で、俺と小井手を見た。 「雨下。今日は来たんだ」 「―――うん。ここのところ来られなかったから」  酔っているせいか、雨下の様子がいつもと違うように見えた。普段はつかみどころのない、明るく振る舞っている男だが、今日はなんとなく歯切れが悪い。  雨下の言う通り、このところ『セレンディピア』に顔を出す頻度が減っていたため、忙しいのだろうと推測する。 「珍しいね―――お客さんとして来てるの、初めて見たよ」 「はい。初めてっす。ずっと来たかったんですけど――あは」  思わず笑いがあふれてしまう。酔っているせいで、なんだか何もかも楽しく思えた。 「……ああ、そうか。誘ってあげれば良かったね。気が利かなかったね」 「いえいえ」  ふわふわしながら喋りつつ、好奇心を剥き出しにした小井手に視線を向ける。 「雨下、こっちは大学の友達で、小井手葉。こっちのイケメンの社長さんが、ホラ、家政婦のバイト先の」 「ああ! 噂の!! 本当にイケメンだぁ」 「縁くん、どういう説明してるの」  雨下がクスリと笑う。その笑いかたに、耳の奥がザワザワした。 「小井手、雨下はな、|Baretoes《ベアトーズ》のオーナーだよ」 「えっ!!!?!!?!?? ま、まじで!?」  小井手が勢いよく立ち上がる。勢いをつけすぎたせいか、よろめいている。 「あのっ、ファンです……!」 「あはは。ありがとう。そうか、うちのブランドのファンか。……靴、サイズ一つ小さい方がいいね」 「売り切れで……」 「在庫見てあげるよ。ショップに出してない在庫があるんだ。黒で良いの? 限定はシルバーだったけど」  雨下が調子を取り戻したように喋り出す。雨下の視線が、小井手の脚をじっと見ている。 (……あれ? 飲みすぎたかな……)  モヤモヤしたのを感じて、胃の辺りを擦る。なんだか、落ち着かない。 「えっ……良いんですか? シルバー……」 「勿論。|縁《・》の友達なんだろ?」 「あっ、ありがとうございますっ」  二人がやり取りするのを横目に見ながら、俺はなんとなく酸っぱくなったワインを飲み干した。

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