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二十九話 交わる吐息
互いの呼吸音が、薄暗い室内に響いた。間接照明だけが灯った、ホテルの部屋。高層階からの眺めは多分、最高なのだろうけれど、それを楽しむ余裕は、俺にはなかった。
やけに広いベッドに寝かされ、覆い被さってきた雨下の唇に翻弄される。
互いの熱を奪うような、激しいキスに、息が上手く吸えずに頭がクラクラした。
雨下は慣れた手付きで、俺のシャツをはだけさせ、胸の頂きに指を這わせる。雨下が触れると、やけに気持ちが良い。自分で触ったことなどなかったが、乳首が感じるのだと教えられてしまい、赤面する。
「う、かっ……、ソコっ……」
「気持ちいい? ここは、触ってあげたことがなかったでしょ?」
雨下の舌が、乳輪を撫でる。先端を尖らせた舌で乳首を転がされると、甘い疼きが腰に響いた。
雨下の手が、皮膚を滑る。今日、何度も焦らされていたせいで、焦燥感が酷い。
もっと、強い快感が欲しい。
めちゃくちゃに、して欲しい。
「雨下―――、あっ、あ……もっと……」
「……っ、本当に……可愛いな、君は」
雨下が、自分のシャツを脱いだ。
思えば、いつも雨下は服を着ていて、脱いだことはなかった。均整の取れた、美しい身体に、思わず見惚れる。
雨下の手が、器用に俺から衣服を剥ぎ取り、丸裸にしてしまう。全て見られてしまう気恥ずかしさに、身体を捩って隠そうとするが、雨下は許してくれなかった。
「全部、見せてごらん」
「あっ……」
恥ずかしい。羞恥に肌が赤く染まる。
「綺麗だよ」
「なに、言って……」
「君を形作る全てが、愛おしい」
「―――っ、」
なにを、キザなことを。
そう、悪態を吐こうとしたのに、言葉は出てこなかった。
雨下の唇が、膝に触れる。
儀式のように丁寧に、膝から爪先に掛けて、ゆっくりと唇が滑っていく。
「君の足は、自分で立とうとする、美しい足だ」
「っ……」
雨下の言葉に、少なからず動揺する。
雨下はずっと、俺の脚を、見た目で気に入っているのだと――そう、思っていた。
「君に、最大級の敬意を」
爪先に、口づけされ、心臓がおかしくなったようだ。
雨下の顔が、潤んで歪む。
「雨下……」
俺の方こそ。
あんたをすごいと思ってる。
あんたの全てが、眩しくて。
俺には勿体ないくらいで。
雨下の唇が、踝から、ふくらはぎへと戻ってくる。
ゆっくりと、目が合う。
どちらともなく、唇を重ねた。
吐息とともに唇を離し、また口づける。
「―――……」
雨下が、やや緊張した面持ちで、指先を会陰に這わせた。
ビクリ、身体が揺れる。
「僕も、初めてだから。ゆっくりするね……」
「う、うん……」
男相手は、ということだろう。雨下はローションを手にゆっくりとヒダを撫でていく。
「んんっ……」
甘い快感に、声が漏れた。触れられただけで、そこが酷く敏感で、気持ちいいことを知ってしまう。
雨下は俺の様子を伺いながら、ゆっくりと指を中へと忍ばせた。
「っ、は―――……」
「……痛かったりする?」
「う、ううんっ……、へい、き……っぁ、動かすなっ……」
「でも、慣らさないと」
くにくにと内部で蠢く指が、変な感じだ。指を引き抜かれると、少しだけ気持ちいい。
「あ―――、あっ……雨下、それっ……ヘンだっ……」
男と寝る知識など、殆ど脳内にないせいで、なにをされているのかもよく解っていない。雨下の指がソコを押し上げると、下腹部が酷く重くなった。
「あ、あっ、あ……!」
「ココ、弄られるの気持ち良い?」
「う、あっ……! ん、んんっ」
いつの間にか指が増やされ、穴が左右に拡げられたり、奥を念入りになぞられたりする。
(なんだこれ。ヤバい……。気持ち良い……っ)
快感から逃れようと、無意識にシーツを蹴る。だが、雨下の手に脚を掴まれ、逃げることは出来なかった。
「あ、あ、雨下っ……」
「感じてるみたいで、良かった」
雨下がそう言いながら、キスを落とす。
直接的な快感とは違う、微弱な快感。雨下はしつこいほどに内部をぐちぐちと弄くって、ローションが乾けば注ぎ足して、何度も何度も、中を蕩かしていく。
「ん―――、ん、ハァ、ハァ……」
どのくらい、そうされていただろうか。開きっぱなしの脚はくたびれて、ビクビクと痙攣していた。シーツが、ローションに濡れてグショグショだった。
俺は、荒い息を吐きながら、ずっと甘い快感に責められ、頭がおかしくなりそうだった。
「雨下……、もう、良いからっ……、それっ……」
「でも縁くん、初めてだし―――よく慣らさないと……」
「いいっ、からぁ……、そこばっか……」
半泣きで懇願する俺に、雨下が困ったように笑う。
雨下だって、限界のはずなんだ。ガチガチに反り立った肉棒に、雨下はふぅと息を吐いて、コンドームを装着する。
指を引き抜かれ、俺は息も絶え絶えに、その光景を見ている。
(何時間……経った……?)
体感では五時間くらい焦らされた気がする。実際にはもう少し短いだろうが―――。
雨下の指が抜け出た穴が、空虚な感覚を覚えた。
「縁くん―――良い?」
雨下の先端が、アナルに押し付けられた。息をする度にそこが、先端に吸い付くように収縮する。
「う、ん……、雨下……」
ぐっと、先端が押し込まれる。十分に柔らかく解されたと思っていても、それ以上に雨下の質量は大きかった。
「っ―――、く」
「縁くん、大丈―――」
「大丈夫っ、だから、ぁっ!」
引こうとする雨下の腕を掴み、行かせない。雨下は唇をぐっと噛んで、そのままゆっくりと捩じ込んで来る。
(くそ、痛い、でもっ……!)
ビリビリと、しびれるような鈍痛が、穴に響く。けど、なんとなく、それは長く続かない気がした。
そこを抜ければ。そこさえ。
ぐぬん。鈴口が入りきって、ずぬっと半分くらい、一気に奥へと入り込んできた。その感覚に、一瞬、息が詰まる。
「いっ、ん!!」
「―――っ、は……、はぁ……縁っ……」
獰猛な瞳で、雨下が見下ろす。俺は息を切らせたまま、両腕を広げる。
雨下が、俺を抱き締める。頬、瞼、唇と、何度もキスを繰り返され、俺は雨下の背に腕を回した。
繋がった箇所が、どくどくと脈打っている。
雨下と。
繋がった。
「う、か……」
俺の顔は多分、涙と鼻水とよだれで、大層酷いことになっていたと思う。だけど雨下は熱っぽく笑って、俺にキスをくれた。
ちゅ、ちゅと軽くキスを繰り返して、今度は深く口づける。一生分のキスをしてるんじゃないかと、錯覚しそうだ。
「縁……、動いて、良い……?」
耳元で囁かれ、ゾク、と皮膚が粟立つ。コクンと頷くと同時に、雨下は俺の脚を抱えて、ゆっくりと動き始めた。
狭い奥を抉じ開けるように、ゆっくりと雨下が入り込む。粘膜を擦られる気持ちよさに、膝が震えた。
「あ、あっ……、あ、んっ……」
知らずに漏れる声が、自分のものでないように、甘く掠れている。
目の前では、瞼を伏せて腰を振る雨下の、少し必死そうな顔があって、それが、妙に愛おしくて。
(ああ……)
この男が、好きだ。
どうして、好きになっちゃったんだろう。
「雨下……っ」
雨下が、顔を上げた。
「真尋」
「―――え?」
「真尋、だよ。縁……」
手を取られ、キスをされる。
雨下の真剣な顔に、心臓が止まりそうになる。
「ま……、真尋……さん……っ、あっ……」
「可愛い……縁……」
何度もキスをされながら、身体を揺さぶられる。肉を打つ音が、室内に響き渡った。
「んっ、あ、あっ……、ああっ……!」
「っ…、縁……っ」
俺は雨下にしがみつきながら、快感の波に身を任せたのだった。
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