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三十話 一夜明けて
「う、ん……」
身をよじると、シーツの乾いた音がした。慣れない柔らかな羽毛布団の感触に、ハッとして目を覚ます。
「おはよう」
甘く柔らかな声に、ドキリと心臓が跳ねた。目の前に、雨下の引き締まった胸があるのをみて、昨晩のことを思い返し赤面する。
俺は布団の中にモゾモゾと埋まりながら、チラリと周囲に目をやった。
室内はまだ薄暗い。
「い、いま何時……?」
「ん。まだ三時半ってところかな。寝てな?」
ポンポンと肩を叩かれ、抱き寄せられる。雨下の体温に安心して、瞳を閉じてみたが眠気は来なかった。
「……えっと、大丈夫、です?」
「ぷっ。それ、縁が言うの?」
「いや、だって……」
俺なんかで、良かったんだろうか。
雨下が顔を覗き込み、ちゅ、とキスをしてくる。
「……良かったよ。縁も、大丈夫だったでしょ?」
「ま、まあ……」
ゴニョゴニョと口許を緩ませ、頷く。
「身体、痛い?」
「筋肉痛……。あと、まだ真尋さん、入ってるみたいで……」
「……誘ってるわけじゃないよね?」
「ちっ、違うから。い、一応……」
いや、まあ、そんなつもりはないんだけど。けどさ。
雨下がくすりと笑って、抱き寄せる。ぐいと身体を引っ張り上げられ、雨下の上に乗ってしまった。
「わ、ちょっ」
互いに、まだ裸のため、素肌が触れ合う感触に、カァと赤くなる。
「本当に……可愛いんだから」
「ぜ、全然、そんなことないけど……」
「可愛いよ。縁は」
ちゅ、と唇に触れられる。
「ん、は、んん……ちょっと……」
「大学、何時から?」
「っ、ん……十一時、かな……んん」
舌が捩じ込まれる。同時に、雨下の手が尻を掴む。
「じゃあ、それまで」
雨下の提案を拒むわけもなく、二人は再び交ざりあった。
◆ ◆ ◆
鐘が鳴るのと同時に、教室の机に滑り込むようにして着席する。慌てて駆け込んできた俺に、隣の席に座っていた小井手が顔を上げた。
「なんだ、慌ててさ。珍しいの」
「マジで、全力疾走した……」
ゼエゼエと息を切らしながら、鞄からノートを取り出す。
結局、あれから時間ギリギリまで雨下と睦み合って、正門の前に送って貰った。
(……変な感じ)
身体は軋むし、さっきまで擦られてたせいで、めちゃくちゃ違和感がある。
(でも)
でも、凄く。
「……」
頬が熱い。
雨下の、甘い声が、耳にこびりついている。
(ああ、でも。現実だ……)
身体は怠いし、寝ていたいけど、授業は午後一杯あるし、バイトもある。昨日『セレンディピア』をサボってしまったし、それもなんだか気鬱にさせる。
(謝らないと……)
そう思いながら、頭の片隅では、雨下のことを考えている。
(……真尋、さん……)
キス、好きなのかな。
結構、意地悪。
男性経験はないと言ってたけど。多分、上手いんだよね?
めちゃくちゃ、しっかり準備されちゃったな……。
(あの長い指で……)
思い出して、また赤面する。
「神足、具合悪い? 真っ赤だけど」
「う、ううん。大丈夫……。昨日、ちょっと飲みすぎて……」
「へえー? 誰と? あの社長さん?」
「うん。高級中華。めっちゃ美味しかった」
美味しかった。美味しかったけど、正直、背中にいる雨下が気になりすぎて、それどころじゃなかった。
「えー、うらやま。愛されてんねー」
小井手は、何気なく言ったのだろう。
『愛されている』という言葉に、ビクンと腹の奥が疼いた。
「っ……」
同時に、雨下の熱っぽい顔を、思い出す。
―――愛されて、いるのだろうか。
俺は、雨下が好きで、雨下が欲しくて、セックスをした。
でも、雨下の本心はわからない。
(嫌い―――ではない。多分、好きでいてくれてる……)
けれど、それが俺と同じ『好き』なのかどうか。
それだけは、俺にも分からなかった。
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