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第4話 闇へと下る

机を退かすと、床には取っ手が見えた。思いそれを持ち上げれば、下へ下へと続く階段が現れる。底は見えなかった。まるで罠のようにぽっかりと口を開けている。 「それでは、行きましょうか」 そこに男を誘った。光となるのは、心もとない燭台ひとつ。恐怖を感じさせる時間も与えず、リュナは軽い足取りで降りていく。 奥深くへと潜る度、足音は響いた。どれほど下ったのか考えるのを止めた時、そこに奇妙な音が混ざる。何かの叫び声のような、唸り声のような音だった。甲高く鳴ったかと思えば、地響きのように足裏を伝う。 「この音は……?」 「さぁ」 リュナは知っている。あれは化け物の鳴き声だと。しかしわざと知らぬふりをする。誰にも種明かしをする気はなかった。 「僕は風の音だと言っているのですが……信徒の中には、怯える者もいるようです。自分の罪を咎めているのだと」 「……罪」 「ええ。この建物には、罪を犯し、逃げ、覚えのないまま辿り着いた人間が多くいます。けれど皆、懺悔し、祈り、贖うことで生きているのです」 それでも、人によって違いはあった。前向きに生きようとするもの。未だ天罰に怯え続ける者。罪に両親の呵責すら抱かない者。一番後者は、今の彼のようにリュナを訪れようともしない。この建物の秩序を脅かさない限りは、捨て置いているが。 「自分の受けた裁きではまだ生温いとする方は言うのです。あの鳴き声は地獄の番人のものだと。地下通路からすら僕たちが逃げられないよう、唸り声をあげて見張っているのだと」 その推測もあながち間違いではないのだが、彼らは自分とは違い、その万人に出会ったことは無い。 逃げられないとはどういうことか。 リュナとしてはてっきりそういった問いが返されるものだと思っていたが、男はその一言にこだわらなかった。あるいは、この建物を出たところで帰る当てもない。そんな罪を犯したのか。 どちらにせよ、彼は別の問いをリュナに寄越した。 「貴方も、裁かれたのですか……?」 その言葉に、リュナは振り返り、悲しそうに目を伏せる。そして上目遣いに彼を見て、その唇にそっと指を当てた。「これ以上、言ってはなりません」と乞うように。 ふたりの足がしばらく止まる。男は息を呑んでリュナを見ている。彼の瞳には、妖艶とも清純ともとれる、自分の姿が映っていた。

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