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第18話 礼拝
毎日午前中、聖堂でリュナは礼拝を行っていた。
といっても、自分たちが暮らす建物を見て、その雰囲気に合わせて、教義を適当にでっち上げた宗教の礼拝だ。新しい内容が思いつき次第皆には言って聞かせるが、そうでなければ、手を替え品を替え話す。だからそれが退屈な時間であることは、何よりリュナ本人が承知していた。だからこそ、基本自由参加とし、人が少ない日も珍しくはないが……。
礼拝への参加者が、日に日に少なくなっていた。今日などは、確実にリュナに心酔しているとわかる面々だけが、前から詰めて長椅子に座っていた。講堂にリュナの声だけが虚しく響く。
他の者はどこに行ったのか。礼拝も昼食も終えてそれとなく建物を歩いてみても、廊下にも部屋にもいない者が多い。もう一度、リュナは礼拝堂のある中庭へと向かう。賑やかな声が聞こえてきたからだ。
「すみません。ちゃんと連絡しておけばよかったですね」
見覚えのある者がリュナに近づき、非礼を詫びる。
果たして、彼らは中庭に花壇を作っていた。先ほど自分がこの辺りを通った時は休憩中だったという。
指先を土まみれにしたヴィオが、楽しそうにこちらへ近づいてくる。どうして花壇なんかを……リュナがそう問いかける前に彼は答えを寄越した
「供給所っていうんだってね。廊下の行き止まりに棚があって、棚なのに向こう側に壁も空間も見えなくて変な場所。そこに麻袋が置いてあったんだ。聞いたら、毎月そこに食材とかが届いて、リュナが管理してるって教えてもらった。じゃあおてつだいしようかなって思ったんだけど、見てみたら食べ物じゃなくて花の種だった」
リュナが供給所と呼んでいるのは、なんでもない、ゲーム世界で言うならアイテムボックスのような場所だ。廊下の突き当たりに棚がある。ヴィオの言う通り、その向こうは暗闇で何も見えない。ただ月初めに、継続ボーナスとばかりに食品や日用品が置かれる。本来のゲームであれば、攻略に役立つアイテムがもらえるんだろうが、この世界で暮らしていくには、それだけでは足りない。このアイテムボックスはゲームでは省かれていただけで、常日頃から、この建物で暮らす人間に必要な品を届ける仕組みになっていたのだろう。
しかし、今日は月初めじゃない。だからリュナも食材を取りに行かなかった。ヴィオは興味本位でそこに向かった。
簡単に想像できてしまった。いつも誰かに引きずり込まれてしまうのではないかと、自分が怖々と手を伸ばしていた暗闇。しかしヴィオは、何も思わず、好奇心だけで軽々と手を伸ばしたのだろう。
「でね、なんの種か分からないから、みんなで植えてみようってなったんだ。リュナの場所はおれがとっといたよ。一緒にやろう?」
「やりません」
はっきりと口にしてから気づく。これはリュナの「キャラ」ではない。彼は声を荒らげないし、断る時は相手に気まずい思いをさせないよう、やんわりと優しく断る。
現に周囲の空気は少し固くなったように思えた。彼らの表情が強ばっているように見えた。
「花には、あまり詳しくありませんから……失礼します」
背後から噂話が聞こえる。やっぱり怒らせちゃったかな。そんなことで怒る人じゃないよ。しゅんとするヴィオと、それを慰める周りの者たち。数日前には、聖堂でリュナとともに礼拝を行っていた者たち。
彼らが礼拝に来なかったことで、胸の内に薄暗いものが広がった。しかしまだ噂される余地があることに、ほっとしている自分も、確かにいたのだ。
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