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第20話 いきどまり
夕方になり、夜になるまで、ベッドで蹲っていた。震える体を落ち着かせるので精一杯だった。時間の流れにも構っていられなかった。お遊びのようなガーデニングも終わったのだろう。廊下を歩く足音が聞こえる。皆の話し声もどこか満足そうに思えた。ただ粛々と日々を過ごすだけだった信徒が、リュナがいなくても、嬉々として未来を語る。どんな花が咲くのだろう、と。
育つものか。この世界はずっと曇りで、満足な陽の光も得られないのに。
しかし、花にはヴィオから魔力が与えられる。きっと自分の薄暗い期待は裏切られるだろう。
まるで薄暗い玉座から突き落とされる心地だった。自分が無視されることのない居場所を、やっと手に入れられたのに。何があっても微笑む青年を演じた。なけなしの知識でこの修道院を治める教義を作り上げた。そこまでして、前世の自分が望んだ今だった。
それを奪われてなるものか。そう思った時には駆け出していた。辺りはすっかり暗くなっている。もうすぐ夕食の時間なのだろう。しかしリュナが向かうのは、食堂とは正反対の方向だ。
地下への階段を降りていく。歩みを進めるにつれ闇の深まっていく様が、今の自分には救いに思えた。
早くあの化け物に会いたい。自分と孤独を分け合える唯一の存在。そして自分の居場所を守ってくれる圧倒的な力。会って、彼に肉塊に包まれて、自分は大丈夫なのだと安心したい。
駆け下り、地下へとたどり着く。そこで愕然とした。
あれほど堅牢に見えた檻の扉が開いている。鍵はポケットの中にある。誰かが持ち出してあの化け物を解放した?違う。鍵は無理矢理こじ開けられている。そもそも化け物が逃げ出したのなら、粘液が這いずり回った跡としてできているはずなのに、扉から階段へ続く道には、足跡ひとつなかった。
「なんで……どうして……!」
呆然として呟いた後、頭を掻きむしった。声はどこにも届かない。
不安が膨れ上がると、前世のことを思い出す。仲間に入れてもらえなかったこと。「入れなくていいの?」と誰かか輪の中心にいる人物に言った時、「誰だっけ」と首を傾げられたことがある。「あの子役やってる子の弟だよ」。そう言われてやっと納得したようだった。ここで仲に入れてと積極的に言えるような子どもだったら、自分を惨めに感じることもなかっただろうに。前世のリュナは、結局、校舎の陰で楽しそうな笑い声を聞くことしかできなかった。ちっぽけなプライドを傷つけられ蹲ることしか。
それからだったのかもしれない。自分は誰にも認識されないほど影の薄い人間だと自覚したのは。ようやく覚えられていたのたとしても、姉の弟でしかなく、自分自身を見られることなんて決してないと自虐とともに悟ったのは。
せっかく生まれ変わったのに、またここでもそうなるのか。モブらしく、ただあの主人公の少年が懐いている年上とだけ認識されるようになるのだろうか。
「嫌だ……そんなの、絶対に嫌だ……!」
絶叫ともいえる悲鳴への返事はない。ただ地下の空洞に虚しく響くだけ。
なけなしの希望に縋り付くように、一歩、また一歩と少しずつ歩みを進めた。しかしそれも、わずか数メートル進んだだけで止まる。
知っているのだ。この施設から、自分は出ることができないと。外の世界を見ることができるのは、主人公、そして彼と結ばれた攻略対象者だけ。名前の無い登場人物である自分は、一生この建物の中にいるしかない。
気力が損なわれ、その場でへたりこんだ。ここから続いている地下牢の先にあるのは迷宮。それもゴールはなく、どこに進もうとも行き止まりだ。
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