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第31話 嗜虐

リュナとケリーは、ヴィオが暮らしている一室を訪れた。そこはリュナの部屋の真上にある。日当たりなど関係ない世界ではあるが、信徒たちの厚意で、一応リュナが最上階の南側ひと部屋を自室としていた。そしてヴィオがあてがわれたのは屋根裏部屋。斜めになった天井の奥など体を屈めないと入れない場所だった。 いっそのこと、化け物のいなくなった地下室に閉じ込めようとも思ったが、ヴィオ本人が嫌だと喚いてうるさかった。 それに、いつか化け物が戻ってくるかもしれない。あれは自分に懐いていたから。その時にヴィオと鉢合わせしてしまったら?そのまま食いちぎって消化でもしてくれればいいが。彼が魔法を使えると知った今、返り討ちにあう可能性も考えられた。 それは単純に嫌だと思う。あの化け物は僕のものた。主人公なんかに奪わせてなるものか。 当のヴィオは、少年の体を胎児のように丸めながらうたた寝していた。扉を開けて顔をのろのろこちらに向けるだけ。しかし、リュナの姿を見つけると急に起きて駆け寄ってきた。 今にも犬のように飛びつきそうな彼へ、一言「座れ」と命令する。不安げな顔で、彼はその場にぺたんと腰を下ろした。 「貴方がいけないんですよ。あまりにも聖職者の僕に無礼が過ぎたから」 目をそらす彼の顎を掴んで上を向かせる。屈辱的な状況なのに頬は火照り目は潤んでいる。そのことに、リュナはえもいわれぬ気味悪さを感じていた。 「……自分を虐げてくる者に執着して喜ぶ。異常ですね」 それが、ヴィオを痛めつけるためにリュナが見つけた大義名分だった。 「異常ってね、伝染するんですよ」 少なくとも、彼が来るまで、ここでは穏やかな日々が続いていた。 「僕だって人に暴力を振るったこともない、清廉潔白な身だったんです。なのに、こんな風になってしまった。きっと貴方の異常が移ったんでしようね」 ヴィオの目がぱっと輝いた。 「あはっ、じゃあおれたち、一緒なんだ」 「……気持ち悪い」 さらに言えば、屈辱的でもあった。 いつになれば、彼は自分に頭を垂れて「逆らいません」「この施設のトップは貴方です」と言うんだろう。リュナのことを好いてへりくだっているように見えて、自分の下につこうとはしない。 そうか。それもあって、自分はこの少年を気に入らないんだ。 ならば、もっと徹底的に追い詰めなければ。 そう思って手を振りあげたが、ヴィオの頬に振り下ろされることはなかった。後をつけていたらしいセスが割って入り、リュナの手首を掴んで止めたからだ。 「……何をしているんですか。貴方らしくもない」 「アンタに僕の何がわかるっていうんだ」 自分の望みひとつ、叶えようとしなかったくせに。そんな彼が止めに入ったとして、落ち着くどころか余計に激昂するだけだ。 「おー、これはこれは」 その中で、呑気な声が響く。リュナがヴィオと話しているうちに、彼の部屋に入っていったケリーだった。 「最近、リュナ様のもとから何かなくなったものはありますか?」 わざとらしく、普段はつけない敬称で呼んでくる。 彼には、リュナから家探しを頼んでいた。ヴィオを罰する理由に足る何かがあれば見つけろ、と。こじつけで構わない。彼の評判を落とし、自分が罰を与える理由さえできればいいのだから。適当に、他の者が持っていないであろう物を見つけたら、棚から着服したことにする手はずだった。 しかしまさか、こんな物が出てくるとは。 「下着は定期的になくなっていました。そろそろ枚数が心もとなくなってきたのですが、他の者から似た悩みを相談されることはなかったので、被害が自分だけならばと、特に公表はしていません」 ケリーがリュナに見せたそれは、洗濯して干した時より明らかに皺ができている。どうしてそうなったか、今まで何に使われていたのかは考えたくないが。 「リュナ様にとって、これは着服ですかね。それとも盗み?」 そして、下着が盗まれていたという話は、既にセスにはしてある。当時、ヴィオはまだここにいなかったから、あらかじめ盗まれていたリュナの下着を誰かから貰ったのか。経緯はどうでもいい。少なくとも、ヴィオは下着泥棒の共犯だ。 「これではっきりしたでしょう。僕は理由もなく彼を虐げているとお思いですか?最初の被害者は誰ですか?貴方は僕を守ってくれるんですよね?」 セスはばつが悪そうに黙った。 「神は罪をお許しになられます、しかしそれ相応の罰を受けなければ禊は済まない」 「おれ、盗ってない!リュナにそんなことしない!やだ!やめて!」 「嫌なら、魔法でも何でも使って抵抗すればいい」 「できないよ!リュナのことは壊したくない!」 もみ合いになりなかなか脱がせられないでいると、後ろにケリーが回って暴れるヴィオを拘束する。抵抗が嘘みたいに、するりと上も下も脱がせることができた。 「うわ……」 仕置きのために脱がす前から予感はしていた。しかし、改めて見たら侮蔑の表情がが抑えられない。自分は彼の衣服を剥いで丸裸にしただけだ。触れられてもいないのに、既に彼の性器は頭をもたげていた。 「意外と体に似合わずデカいのな」 ケリーが後ろから覗き込んで下卑た笑みを浮かべている。 「見ないで……」 ヴィオが羞恥で下半身をもぞつかせる。あの主人公が。力で全てをねじ伏せることの出来る完璧な存在が。名前もなかったはずの自分に。 リュナはもう高揚が抑えられなかった。もっと酷い目に合わせてやりたい。確かにケリーの言う通り、そんなことを考える自分は、神の遣いでも聖職者でもないのだろう。 「触ってもいないのに、どうしてこんな風になってるんでしょうね」 靴先でヴィオのそこをつつく。 「おいおい、泥がついちゃ可哀想だろ。それに力加減を間違えたら潰しちまうかも。もっと別の方法で抜いてやれよ」 リュナとしては、彼の欲求を発散させてやるつもりはなかった。なのにつつかれただけでなお、そこら膨張している。 「僕にこんな汚い物を触れと?」 「アンタだってもっと面白いもんがみたいだろ。ならサービスしろよ」 嫌だ、やめてほしいと泣いて自分に許しを乞い、跪くヴィオの姿が、見たくないと言ったら嘘になる。 「今日だけですよ」 「よかったなぁ」 溜息をひとつ吐いた後、靴を脱いで、素足でそれに触った。指先にぐんにゃりした感触とわだかまっている熱が伝わる。正直、気持ちが悪い。 足の親指と人差し指で挟んで上下に扱く。そこはもう、先走りですでに濡れていた。ねちゃねちゃと粘ついた粘液特有の音が響く。 「……っ」 ヴィオは情けない声を出すのを必死で堪えているらしい。唇を噛んで歯を食いしばっている。 もっと屈辱にまみれた顔をすればいい。 自分に虐げられて喜ぶ余裕などなくなるくらいに。完全に屈服するように。 リュナは親指を力いっぱい曲げた。先端をぐりぐりと弄ぶ。足が慣れていない動きをしているせいか、次第に息が荒くなる。 ヴィオは挿入していることを妄想しているのか、腰が揺れている。彼は誰に挿入するのを妄想しているんだろう。 やがて頼りなかった腰の動きも、リュナの足淫に合わせて激しくなる。自分の足を自慰に使われているようで不快だった。 「出さないでください。そんな汚いもの」 「あ……っ」 絶頂に達する直前、爪先でぎゅっと根元を押さえつけた。ヴィオが苦しそうな声で呻く。 「おいおい、さすがにそれは可哀想だろ」 「ちょっと!」 足を無理矢理ケリーに離される。かかとをもってどこにやるかと思ったら、汚らわしいものの先端に乗せられた。割れ目からぷっくりと雫が溢れ、足裏を濡らす。 「やめ……やめなさい……」 温かい性器がぐりぐりと親指に擦り付ける。嫌だ、汚いと思うのに、体は踏み潰したいといわんばかりに体重をかける。 「ぅ、く……っ」 そうしてヴィオ精液が吹き出す様は滑稽だった。 「……汚れました」 足をヴィオの口元に近づける。そこについた精液を舐め取らせた後で、頬を思いっきり蹴った。ヴィオは倒れこんだまま吐息荒くし、なぜかまたそこがまた勃ち上がりかけていた。 「……浅ましい」 リュナはそう吐き捨てて、剥ぎ取った衣服はケリーに与え、ヴィオの部屋を後にする。 「この服はどうする?」 「捨てておけばいいでしょう」 新しい者が来るはずだから、仕置きとして剥ぎ取った服をその人に与える。しばらくの間にヴィオは外に出られないだろうが、奪われる側の気持ちを理解し、反省するだろう。それをもって、リュナの下着を盗んだ罪の贖いは終わる。 それが、誰かにヴィオのことを聞かれた時にする言い訳だ。もっとも、新たに人間など来るはずがない。主人公がもう来てしまっているのだから。 「捨てたら、新しい服が来るまで、アイツは外出られないぞ?」 「でしょうね」 それだけか?と探るようなケリーの視線は無視をする。 もしヴィオが耐えきれず全裸で部屋の外に出てきたのなら、とんだ変態だ。出てくるとしたら人が寝静まった後の深夜になるはずだ。人目があるうちに出てきたら変態と罵ってやるつもりだったし、皆で食べるはずの晩餐に席を空けたとなれば折檻しようと考えていた。 先ほどの、ヴィオの無様な姿を思い出し頬が緩む。人が人を虐げる理由など後でいくらでもつけられる。 ということは、前世の自分はそんな人間以下だったわけだ。適当な理由さえもつけてもらえず、そこにいないかのように扱われていたのだから。 「怖いね、我らが女王様は」 にやにやと呟くケリーの声に、一瞬だけ脳裏に浮かんだ考えは霧散する。 歩いているうちに、何かが足に当たった。 「なんだ、コイツこんなところにいたのか」 セスだった。 気配がないと思ったら、屋根裏部屋から出た近くの廊下で、何かをぶつぶつと呟きながらうずくまり、情けない姿で震えていた。壊れたように髪をかきむしっている。 「おかしい……こんなの……絶対に……これじゃあ妹の時と同じ……罪は購ったはずなのに……」 「はい邪魔。そこ退いて。ただでさえお前はデカイんだから」 ケリーが適当にいなしてセスを立ち上がらせる。その時、目が合った。彼は血走った目でリュナを見ていた。 言葉にせずとも、彼は瞳だけでこう語っていた。 「ヴィオが来てから、貴方はおかしくなってしまった」と。

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