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第35話 失墜
そして、恐れていた日はすぐにやってきた。
相変わらずリュナの体調は優れない。周囲の人々はそんな彼を噂するどころか、もう話題にもしなくなっていた。
このままでは、前世の自分そのままになる。誰も気にもとめず、ただ死んでしまった過去の自分。
それでは生まれ変わった意味もないと思うのに、体がついてこない。
今、ヴィオはリュナの前を歩いている。食欲もないのに夕食の時間だと起こされてしまい、ベッドから引きずり出され、廊下へ出された。そして今も尚、繋がれた手から、じっとりとした体温が感じられて不快だった。
食欲はあるのか、昨日はどれくらい寝られたのか。ヴィオの鬱陶しい質問にわざわざ答えを返すことは無い。わざと無視しているのか。答える気力もないのか。自分でも分からなかった。
ただ、途中で思考が途切れて空白ができる。その時にふと思った。
目の前は階段だろう。前を見て歩かないと落ちるぞ、と。
そんなこと、彼くらいの年齢でもわかるだろうに。案の定、ヴィオは階段を踏み外した。そのまま真っ逆さまに落ちそうになる。
自分と手を繋いだままで。
このままだと一緒に落ちる。
自分だけが死ぬよりはマシか。どうせなら立場を奪う役目を持ったコイツと一緒に死んでやる。
でもコイツがいなくなるんだったらまだ生きていたかったな。また主人公の立場を乗っ取って、みんなから敬われて。
考えが駆け巡ったのはほんの一瞬だった。
その隙に、彼は自分の手を離した。あれだけ離したかった手だ。あっさりと彼に応じる。
このままでは、彼だけが落ちる。
手を伸ばしたのは無意識だった。
不気味な相手。憎い相手。消そうとしていた相手。それなのに咄嗟に助けようとしたのは、自分に変な噂が立つと嫌だからだったのかもしれない。
それでも、事実、助けようとしたのに。
「……っ!」
ここにきて頭が痛んだ。前世を思い出そうとしていたわけじゃないのに、記憶が、声が響いてくる。
アンタのせい。なんてことしてくれたの。全部台無し。この疫病神。
アンタが代わりに死ねばよかったのよ。
姉に似た声だけど姉じゃない。彼女はこんなこと言わない。よく似た声は全て母のものだ。
私のことが、ずっと羨ましかったんでしょ?
では、母より若い子の声は?今度こそ、姉のものじゃないのか。
「ぼく、僕は……」
私と同じくらい、苦しんで、苦しんで死ねばいい。
「うわあああああああ!」
叫んでいた。それと同時に、ヴィオが階段を転がり落ちていく。
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