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第38話 姦淫

油断していたわけじゃない。むしろ警戒することに疲れていた。化け物はまだ戻ってきていないか確かめようと気が急いていた。地下に来たら誰も意識しなくていいと思った。だから後ろに誰かいるなんて気づかなかった。 「なんだ。こんなところにいたのか」 聞き覚えのある声だった。振り返る前に突き飛ばされる。頬が土っぽい石畳に擦れ、ひりひりと痛む。 声の主を、ケリーの顔を見る前に、後ろから髪を引っ張られた。そしてまた床に叩きつけられる。今度は頭でも砕こうとしているのかというくらい、思いっきり。口の中に血が広がり、鼻からはぼたぼたと床に赤い血が垂れた。 「まさか部屋から地下に繋がってるとはな。でも逆に好都合だよ。ここなら悲鳴も届かないだろ」 「にしてもこんな場所があったなんて。何人か来たこともある信者もいるんだろ?」 「何があったかは誰も口を割らねぇけどさ。ここで毎晩何やってたんだか」 一緒にいるらしい二人の男の声にも聞き覚えがあった。ケリーとよくつるんでいた男たちだ。彼が自分リュナに付き纏っていた時はあまり近づいてこなかったが。 「いや、コイツのお楽しみはもっぱら屋根裏部屋だったね。」 「あれは……お前がやれって……!」 「でも、随分と楽しそうだったよなぁ」 口答えも許さないと言うように、より強く地面に顔を擦り付けられた。抵抗の気配を察知したのか、後ろで手首を拘束される。 「まさか、自分がやられる側なんて考えてなかったろ」 その言葉で、これからされるのがろくでもないことだとすぐに予想がついた。 それを裏づけるように、地面を叩く鞭の音がする。掠ったらしく、頬に赤い線が引かれた。 「まったく同じことするなんて、つまらないからしないけど」 じゃあ何をする気なのだろう。それは奇しくも、他のふたりの言葉で知ることができた。 「ちょっと、顔に傷つけていいの?」 「いいんじゃね?嫌いな顔を血と涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしてさ。そういうの結構くるよ?」 「俺は嫌だよ。この綺麗なツラ見られなかったら、ただの男犯してるのと変わんねぇだろ?」 「お前そっち系?」と揶揄する声がする。 「もうどっちでもいいね。ここの禁欲生活で爆発しそうなんだよ。突っ込める穴なら何でもいい」 彼らに友情なんてものはなく、ただ自分を酷い目に合わせたいがために集まってる。酷い目が意味するところの主義主張は違うらしいが。 「頼まれてさ。俺、男を相手にする気は全くなかったんだけど」 ケリーは直接手を出すつもりはないと言うが、リュナにとって、3人とも自分に危害を加える敵であることに変わりは無い。 「とか言って、男相手でも見るのは好きなんだろ?レイプショー」 見下され、嗤われるようになったリュナは、彼らが真っ先に犯しやすい捌け口だった。 服を脱がされそうになって必死に抵抗すると、布をかがされた。口封じだろうか。地下で叫んでも誰にも聞こえないと言ったのは彼らの方なのに。 しばらくして、布を使った理由が分かった。体が重い。次第に力が抜けていく。微睡む直前のようなのに、意識だけははっきりとある。 「う……ぁ……」 怒鳴りつけてやろうとした。しかし口を開けば、呻くような声しか出ない。 「目とかマジでキマっちゃってるけど、大丈夫なヤツ?」 「ん、ぐ……っ、んんっ……!」 指を奥まで突っ込まれる。あまりの苦しさに舌で押し返そうとしても、より強い力で指は奥に進んでいく。二本の指先は、ぐちゃぐちゃと口内を掻き回した後、喉奥を擦った。 「ぅ……ぐっ……ぇ……っ」 嘔吐き、指が引き抜かれた途端、胃液か涎か分からないものが唇の端を垂れていった。 「んー、まあまあじゃね?舌とかめっちゃ吸い付いてくるし。勃たなかったら、最悪こっちの穴使おう」 「はい、ばんざーい」 自由のきかない腕を無理矢理あげさせられる。幼子のように揶揄されるだけで頭の中がかっと熱くなった。なのに体は抵抗することもできず、ぐったりと重くなったままシャツを脱がされる。 「いいお薬だろ?これ、ヴィオの奴がくれたんだ」 なんでそんなものを持っているのか、なんて聞かなくても分かる。BLゲームの世界だからだ。花で作ったのかもしれないに棚にあったのかもしれない。どちらにせよ、つまりはろくでもない薬だった。 案の定、体に力は入らないのに、快楽を求める熱だけが身体中を駆け巡っている。性器は既にゆるく勃ちあがっていた。 三人の視線がそこに注がれているのがわかる。隠そうとしてもうまく脚が動かない。見られている感覚が余計に羞恥を煽り、状況を自覚させ、なぜか息が荒くなる。 「前さ、ヴィオがお仕置きされて勃起してた時、気持ち悪いとか言ってたよな」 「人のこと言えねぇじゃん、コイツも」 なんとかならないかと開かれた脚を閉じようにも、無駄だとばかりに腕でこじ開けられる。身を捩る度、小ぶりの性器は無様に揺れた。 「今さら隠さなくてもいいんだって。でも恥ずかしいならあっち向こうか」 震える膝を今度は地面に尽かされ、四つん這いになる。体に力が入らず伏せたくても髪を引っ張られ頭を上げさせられた。さらには片脚をもちあげられ、まるで小便する犬のような格好だった。 「誰にサービスしてんだよ」 「俺はこういうのが好きなんで。よくない?上品な顔で取り繕った奴が下品な格好させられてんの」 「やっ、ぁ……っ」 そのまま性器を手できつく上下に擦られた。乱暴に握られて痛いくらいなのに、それに反して息は荒くなり、完全に勃ちあがった。 「やだ……っ、や……、出ちゃうっ……」 「もう出てるでしょ」 薬の影響なのか、会陰を刺激されただけで呆気なく吐精した。しかしそれでもなお先端を弄られ続け、射精とは違う何かが込み上がってくる。 「ちがう……っ、へんっ、へんなのくる……っ」 泣きながら嫌だ、止めてと言っても、脚を下げさせてもらえない。それどころか先端にぐっと爪をたてられた。 「やっ……あ、ああぁ……っ!」 頭の中が真っ白になった後、ちかちかと点滅した。 股間から透明な液体が吹き出したんだと気づいても、自分の体液だとは思えない。まだびちゃびちゃとこぼれ落ちていなければ信じられなかった。 「普通この状態でイくか?しかもこれ、潮だよな」 「ほんとに犬みたい。躾のなってない雌犬」 罵ったら無様な格好をとらせ続ける必要は無くなったらしい。暴力的なことが好きだと言っていた男の方に腹を蹴られ、転がされた。 「おいおい、躾ける前から怯えさせるのはよくないだろ」 ケリーは窘める振りをしながらにやついている。本気で止めようとする人間は一人もいない。 嘘だ、嫌だと思っても、目の前に引き出された男の性器があった。 「犬らしく、ちゃんと舐めてもらわないとな」 洗ってもない、蒸れた生臭い臭い。ここで拒否したらまた暴力を振るわれる。息を止めて先端を舐めた。 「ご奉仕なんだから、もっと丁寧にさぁ」 そんなことを言われてもやり方が分からない。やったことない。できないと首を振ると、イラついた様子で喉元まで突っ込まれた。 「ん、んんぅっ!」 息ができない。苦しい。後頭部を押さえつけられているから逃げられない。もがく手まで掴まれ、右手に何か握らされた。熱くぬるついているもの。それが何かを考えないようにしながら上下に動かす。上から2人分の荒い息が聞こえる。 しばらくすると、口いっぱいに生臭くて苦い味が叩きつけられた。喉奥に精液を出されても息苦しさからは解放されない。 「ぅ……ん、ぐっ……」 吐きそうになるものを飲み込めと言われ、口を開かせてもらえない。手のひらで口を塞がれ呼吸すら許されなかった。もうひとりもにやつきながら顔にかける。 自分が何をされているかも分からない。そのせいか、拘束を解かれても、へたりこんで立ち上がることすらままならなかった。 そんなリュナをよそに、男は口々に話し出す。 「こいつを犯したところで誰にも責められない」 「気づかれすらしないんじゃないか。まとめ役じゃなければ気にも止められない男だ」 「何を訴えても信じてもらえないだろ。今や薬中だし」 そこで初めて、この後の自分を想像した。犯されなんとも思われずにボロ雑巾のように打ち捨てられる姿が浮かぶ。嫌だ。こんなの、前世よりひどい。 ずりずりと這って逃げようとした。体が上手く動かない。もたもたしている間に、男が上にのしかかってくる。 「これで少しはおとなしくなるだろ」 「突っ込む時は退けよ」 そのまま掴まれ、尻たぶをぐっと開かれる。 「見ろよ。使い慣れてんじゃね?」 「ウケる。エロいことなんて知りませんって顔して。黒ずんで下品な色」 「やっ……ぁ、あ……っ」 無遠慮に指を突っ込まれる。 「ほんとだ。ずぶずぶ入ってく。とんだ淫乱だよ」 「いた、い……やだ、もう……」 引き連れるような痛み、それと異物を排出したがるうねりが体に起こる度、男たちは面白がって声を上げる。これ以上乱暴に指を動かされたら、おそらく切れてしまうだろう。 「今さらそんな演技してどうするんだよ。こっちは前に聞いたことあるんだし。何回か部屋に入りたくてさ。でもひとりでお取り込み中の時の声がでかいのなんの」 「なんで……僕の、部屋なんかに……」 「頼まれたんだよ。下着持ってきてくれって。そのままオナニーショー見せてやった方があっちも喜んだだろうけど」 「じゃあ……下着を、盗んだのは……」 ヴィオじゃなかった。あの時、部屋に入っていったのもケリーが一番最初だった。リュナに付き纏っていたこともあり、何かを仕掛けようとすればできる位置だ。 「欲しいって奴、いっぱいいるんだよ。ああ、コイツらじゃないけど。見てるだけで手も出せないような奴らがさ。今の状況見せても喜びそうだよな」 それだけ言い捨てて、ケリーは地下を出ていく。 こんな姿、誰にも見られたくない。ケリーが誰かを呼びに行ったとしたら?違う。自分がそれ以上に恐れているのは――――。 もし、あの化け物が今戻ってきたら?会いたいと思っていたのに、こんな姿を見られたくない。 「来ないで……今は、来ちゃだめ……」 「何の話?」 「さぁ?狂ったんじゃないの?」 助けて。見ないで。矛盾した願いを呟き続けたから、近づいてくる足音に気づかなかった。

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