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第40話 地下迷宮

リュナの面倒は、ヴィオが付きっきりで見るようになった。リュナ部屋に押しかける形で、地下での事件を隠すように。邪魔といえば邪魔で、正常な頃のリュナなら怒って追い出していたかもしれない。 しかし、今のリュナはもっと違う妄執に囚われている。許せない人間をどうするか。華奢な体では暴力に訴えることもできない。だから自分には力が必要だと、やはり同じところにたどり着く。自分のためになりふり構わず力を奮ってくれる誰かが欲しい。あの、地下の化け物のような。 その結論に至って以来、ずっと同じことを考えていた。昼下がり、リュナはシーツに包まってぶつぶつと呟く。地下に行きたい。あの化け物に会いたい。それを聞くとヴィオは目を細める。悲しんでいるような、微笑んでいるような、哀れんでいるような、そんな顔だった。それがまた無性にリュナを苛つかせた。 どれだけ地下に行きたいと言っても、ヴィオは許可を出してくれなかった。コイツの許しなんていらないのに、起き上がりドアに近づくとさりげなく止められる。まだ怪我が治ってないとか、今度一緒に行こうとか、適当な理由をつけて。 それでもヴィオがずっと一緒にいるわけじゃない。リュナが襲われてから、さすがに施設内で統率を取ろうと思ったのだろうか。リュナの作った教義に愛なんてものを加えて、ミサを行っているらしい。食事を一緒にとる習慣も復活した。だからこそ、リュナは抜け出せる時間を知っていた。 朝から気分が悪いと寝たふりをする。嘘じゃない。気分はヴィオが来やっててからずっと悪いのだから。 そして、彼が来ない時間を見計らって部屋を抜け出し、地下に行く。 地下に人間は誰もいない。いたとしても、もう誰も自分を見なくなった。目が合った思ったら人間として扱われない。犯すのはご法度という話がさすがにされたのか、いないもののように扱われていた このまま皆忘れ去られ、誰もリュナを思い出さなくなったら、今度こそ自分はたった独りだ。嫌だ。涙は自然に零れる。感情は絡み合うのに出てくる言葉はひとつだかけ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。 人に囲まれ、感謝と笑顔を向けられる。死ぬならその後がよかった。 自然と足早になり、自ら暗闇へ向かう。 地下には恐ろしい生物がいる。それも一体や二体ではない。ゲームでもそれらを相手にしたイベントはあったはずだ。攻略対象の前で、主人公が魔力を使いモンスターをねじ伏せる。吊り橋効果を利用した好感度アップのためのイベントだったと記憶しているが、詳しくは思い出せない。 ただいつもと違うのは、思い出そうとしても頭は痛まず、なぜか涙がこぼれ落ちただけだった。 最近ではこんたことが時おりある。前世を思い出そうとすると、悲しくも苦しくもないが涙が出る。頭痛を起こす記憶とどんな違いがあるというのだろう。 ヴィオに見られたら涙まで舐められてしまいそうだったので、涙が出る度、そっとシーツに顔を押し付けた。時おり押し殺した声が漏れるようにもなった。 でも、この涙はただ思い出そうとした結果だけではない気もする。 本当は、自分の味方だった化け物に会いたい。でも今はもう、似たような存在だったら誰でもよかった。自分が唯一無二の存在を求めているのに、彼にはそう思っていられないことに胸が痛む。 シャツの胸元をぎゅっと握りしめながら、明かりもないまま、リュナはやみくもに地下の迷宮を走り回った。声は出さなかった。戻る時のことは何も考えていないが、ヴィオに見つかることだけは避けたかった。

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